霊力の枯渇した主。何故か生命を蝕む程酷く消耗していく、そんな主を政府は手放しで見ておくほど暇ではない。
「審神者を降りて現世に戻ってはどうですか」
政府の人間はこの本丸の状況を危うしと見たか、我々の主を切り捨て、新しい審神者をこの本丸に置くと提案した。この主は頸、 というわけだ。
「っ……」
その言葉に、主は拳を握りしめ俯いた。
結局、主は了承した。
トントン拍子に事は進み、あっという間に本丸の引き継ぎが終わった。「これでいいのか」と聞いた。主は「私の本丸とみんなが居なくなったりしないなら、それでいいよ」と。寂しそうに笑っていた。
現世に主が戻る日。引き継ぎの審神者が主に頭を下げた。政府の人間と共に、本丸の空間を繋ぐゲートをくぐる。隣にいる初期刀の加州清光は今にも泣き出しそうな顔で主を見送っていた。
数日が過ぎた頃、加州が無理を言って政府と交渉した約束の日が来た。現世に飛び、少しの間だけ主の姿を確認する。実体にはならず、こちらの存在を気取られてもいけないという約束だ。政府の人間によると、主の審神者としての記憶は操作され、残っていないとの事だった。ただ、元気でやっているか、それを確認したいだけと加州は言う。
あらかじめ主の元に飛べるように座標が決まっていた。現世に着いた瞬間目に飛び込んだのは雑居ビルの屋上。正面には揃えられた靴。
主はいない。
「は?」
加州の乾いた疑問の声。
続いて聞こえたのは悲鳴だった。
「主いないじゃん」
地上からどよめきや悲鳴が聞こえる。加州は屋上から“それ”を見下げる事はしなかった。
揃えられた靴に踏まれた状態の紙切れがひとつ。
『長い夢を見ていたきがする。
私の居場所は多分ここじゃない。
帰りたい。』
主の記憶は消しきれなかったのか。分からない。加州はその紙切れを見ておもむろに座り込むと俺に向かって一言こう言った。
「ごめん、俺、もうウンザリ」
そして顕現を解いた。
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呼吸が荒い。苦しさで目が覚めた。
「夢、か……」
早朝でまだ薄暗い。本丸内には起きている刀も多少居るような気配がする。眠り直すには気分が乗らず、本丸の中を散歩することにした。足は自然と主の部屋の近くに来ている。
「主」
主が縁側に腰掛けているのが見えた。
「おはよう、三日月」