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    めめーぷる

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    めめーぷる

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    ソル視点の日記風SS

    死者蘇生なんて生命に対する冒涜だ、折角得た死を、永遠の安らぎを取り上げるなんて傲慢だ!と言う考えのソルに対して、メルクリウスが「自分がやろうとしていることは死者蘇生ではなく立派な医療行為なんだ、お前がいる限り私は死なないぞ」と言い聞かせている話。

    ##ソルメル

    ソルメル ―――― ふと思い出した。もう何十年も昔になる、おれにかけられた不老不死と、もうひとつの呪いのことだ。
    「つまるところ、未来への一方通行のタイムスリップだな!」
     そう意気揚々と語る無二の友ことメルクリウスはおれに死のプロセスについて説明した。
     
     
    「ソル、不老不死の貴様にとって死の定義とはなんだ?」
    「そりゃ、心臓が止まって身体が生命活動を止めたら死だろうさ」
     ま、おれは心臓が体外に出ても死ぬことは無いが。
    「まあ概ねその通りだな。今も昔も変わらず心肺が停止したらあとは一方通行。血液の循環は停止し、あとは身体が朽ちてゆくのみ。子供でも知る自然の摂理だな」
     
     メルクリウスはいつものように大仰な手振りを加えながら語る。
    「ではもうひとつ聞こう、死を失いし友よ」
    「医療が発展し、どの人間も貴様のように心肺機能が完全に停止した状態から蘇生できるようになったら、どうなる?」
     メルクリウスはおれにそう問いかけたあと、シンキングタイムとクッキーを口に運ぶ。数度咀嚼した後嚥下し、再びこちらに目線を戻した。菓子といえもっと噛んだ方がいい。
    「あー一度心臓が止まった人間、つまり死んだ人間を蘇生できるってことか」
    「貴様以外の生物からするとそうなるな」
    「…ああそうか、心臓が止まった状態から蘇生できる技術が確立しているなら、その時代にはもうその状態を死とは呼ばなくなる」
    「ご名答」
     メルクリウスは特徴的な瞳孔を歪め、にまりと笑顔を浮かべる。どうやら正解だったようだ。
    「ではその次、身体が朽ち始めた状態から元通り元気だった状態まで蘇生できるとしたら?」
    「これも同じことだな、元に戻す術があるのならそれは治療だろうさ」
    「そうだ。では白骨化した状態から、あるいは脳や心臓などの一部から蘇生できるとしたら? これも死者蘇生などではなく、可逆的な治療であり立派な医療行為になるだろう」
    「技術の進歩によって死の定義は変わるということか」
    「まさしくその通りだ。死とは今現在の定義で死と呼んでいるだけにすぎぬ。つまり私は貴様と同じ不老不死を、科学の力によって得ようとしている訳だ」
    「そういう視点もあるのか、おれのような呪いとは違う形の不死か…死の概念そのものを変えようとはおまえらしい」
    「そこで私の研究している冷凍庫に繋がるという訳だ。まぁこれも不老不死へのアプローチのひとつに過ぎないが……」
    「あの巨大な冷凍庫か? 半永久的に稼働するとかいう」
     メルクリウスが制作している、大柄な成人男性が余裕で収まるほど巨大な冷凍庫のことだ。その大きさというのも内容量のはなしで、全体の冷却装置の部分を含めると、地下の一室がゆうに埋まるほどの大きさだ。肝心の使用用途はのらりくらりとはぐらかされている。
    「簡単に言うと超低温下では死体が腐ることはない。つまりさっき言った不可逆の死のプロセスを遅らせることができるのだ。さすがの私といえど寿命には逆らえないからな」
    「……ちょっと待て、死体を凍らせる? まさか、おれにおまえの遺体を凍らせろっていうんじゃないだろうな」
    「流石の理解力だな、説明が省けて結構。今は心肺機能の停止が死だが、私が描く未来にはその状態を死とは呼ばぬのだ」
    「もし、もしも億が一にも私が間に合わなかったら、私が眠っている間にその未来を不老不死である貴様が作るのだ、ソル」
     貴様は私のような天才ではないからどれ程の年月がかかるか分からないが、不老不死である貴様なら話は別だ。実用段階に至ったら私を解凍して試せばいいさ。
     
     冗談めかした口調であったがメルクリウスはいつになく真面目な顔で、おれに呪いをかけた。この男がもし、なんて不確定な言葉を使うのは初めてであった。
     
     
     
     そしてその数年後、メルクリウスは志半ばで非業の死を遂げることとなる。
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