それはきっと大きな初恋 これまでのあらすじ! 滑り台から着地をキメすぎて長座で地面へ着地。
アルジュナは茫然としていた。七年の生涯のうち、これほどの無様を晒したのはこれが初めてだった。しかもよりにもよって、カルナと一緒に公園へ来ているときだ。臀部が硬い地面に叩きつけられてじんわりと痛いし、腿裏からふくらはぎにかけての砂の粒粒した感触に情けなくなる。
「アルジュナ、どうした。無様を晒したか」
駆け寄ってきたカルナの言葉も言葉だ。うう、とアルジュナは小さな頭を抱え、ここからなんとか挽回しようと幼い思考回路をフル回転させる。その間に彼はアルジュナをひょいと抱き上げ、ぱっぱっと砂を払った。まだ高校生の彼の肉体はしなやかにアルジュナを抱き上げ、足早に歩き始める。
「少し擦過傷になったか」
小さく呟いて手洗い場へ向かう。ふくらはぎがひりひりするのはどうも、擦り傷ができているためらしかった。いよいよ情けなくなってカルナにしがみつき、「見ないでください」とか細い声で懇願した。
「何故だ」
「恥ずかしいので」
「そうか」
彼はそれきり黙って、手洗い場へアルジュナを降ろした。ふくらはぎに優しく水をかけられ、「しみる」と呟くと「悪く思え」と返されたので黙る。
「滑り台は、もう嫌になったか?」
「どうしてですか?」
きょとんと彼を見上げると、彼は優しく微笑んで、「それならいい」と頷いた。アルジュナの幼い思考回路はかちかちと適切なパズルのピースを嵌め、「カルナ」と、彼を見上げて眉を吊り上げる。
「私は、そんな臆病者ではありません」
彼は「そうか」と穏やかに頷いて、清潔なハンカチでアルジュナのふくらはぎを撫でた。砂はあらかた落ちたようで、「後は家に帰って消毒だな」と、ひとりごちる。
「立てるか?」
「何歳だと思ってるんですか、もう」
こまっしゃくれたことを言う異父弟に、カルナは目を細めて「七歳だな」と頷く。そうですよ、七歳ですよ、と年の割には大人びた彼が言って、「手を繋いでください」と幼気にもねだった。それが愛しくて、カルナは彼の手を取る。
「今日の晩御飯は何でしょうね」
「カレーだといいな」
少々家庭事情は複雑だが、いつまでもこの年の離れた弟と仲良く暮らしていたい。「カルナ」アルジュナがこちらを見上げる。いつになったら兄と呼んでくれるのだろうと思いつつ、カルナは小さな手を握り返した。もっとも、そんな日は来ないのだが。