プライベートタイム 捜査がやっと終わり二週間ぶりに休みをもぎ取り帰ってきたのは深夜。疲れ切っていていつもならそろえる靴も玄関で雑に脱ぎながら手袋を外す。ネクタイを緩めスッと引き抜きながらシャツのボタンも外す。ドサっとソファに背を預けフウーッと大きく息を吐く。
「疲れた」
スーツの上着を脱ぎ襟のアクセを外し腕時計もテーブルに投げる。脱いだ上着の内ポケットから煙草を取り出し火をつけて咥え胸いっぱいにニコチンを吸い込む。ふぅーっと一筋煙を吐き出せばやっと落ち着きを取り戻す。ふとテーブルに目をやると灰皿が綺麗になっている。
(ん?)
このところ疲れて帰ってはこんな夜を過ごしているので煙草は溜まったままにしてあったはずで片付けた覚えはない。
カチャッと静かにドアが開く。
「おかえり。あ、窓くらい開けろよ」
と恋人の山田三郎が窓を開け始める。
「……」
深夜二時。ここにいるのは幻か。疲れ過ぎて幻覚が見えるのか。
「随分ボーッとしてるね。大丈夫?」
ハッと意識を現実に戻す。
「なんでいるんだ」
「はぁーっ。今日金曜日だよ。ま、正確には今は土曜だけど、曜日の感覚もないんだね」
三郎は大きな溜息を吐きながら呆れている。
先週は捜査が行き詰まり署に泊まり込んで洗い直しをしていたから帰れなかった。しかも三郎に帰らないという連絡もしていなかった。萬屋山田の仕事がなければ週末はいつも来てハウスキーパーのように部屋を綺麗にしてくれている。とはいえ三郎の方も仕事や学校の都合で来ない事もあるし、約束をしているわけではないのだが。
「へー、疲れてるみたいだね。珍しい」
コトっとテーブルに温かいハーブティーが二つ置かれる。口元に持っていけば癒しの香りが鼻腔を擽る。
「ふぅーいいにおい。毒島さんお手製ハーブティーおいしい。ね、銃兎」
隣に座ってちびちび飲んでいる三郎。猫舌なのか熱いお茶はちょっと苦手そうなのににこにこしながら飲んでいる。
「こんな時間まで何してたんだ」
「いち兄に頼まれた調べ物だよ。うちでやって覗き込まれたりするのヤだからさ」
「また二郎と張り合ってんのか」
「張り合う?相手にならないね」
相変わらず仲の良い兄弟だ。一郎が切磋琢磨させてるのか勝手に切磋琢磨してるのかわからないが成長が著しいのは側から見ていてもわかる。
「結構集中してやって一段落したから水でも飲もうと思ったら電気ついてたから……んもう!なに?」
なにか説明しているが詳細なんてどうでもよくなり三郎の肩に頭を乗せる。三郎はびっくりしたのか少し跳ねた。何か言ってたようだが体も瞼も重くなってしまう。
「顔色わる……チュッ……働き過ぎだよ」
夢か現かわからない微睡みのなか、俺の唇に柔らかな触感が施される。そして心配そうな小さな声…が…聞こえ…………
目を覚ますと身体が痛い。どうやらソファで寝落ちしてしまったようだ。
いい夢を見たな
そう思いつつ身体を起こし着たまま寝てしまったシワのついたスーツを着替えるためにクローゼットのある寝室へ向かった。
寝室のベッドではいるはずのない三郎がすやすやと寝息を立てて眠っている。
ん?
夢かと思っていたことは現実だったのか。あまりに朦朧としていたからどこからが現実でどこから夢なのかわからない。
三郎から労いとキスをもらった。そのあと口にはできないような可愛らしい姿を堪能した。
しかし帰ったのは深夜のはずだから全てが夢かもしれない。
どちらにせよ久しぶりの休日は最愛の恋人と過ごすことが出来る。夢だったなら現実にすればいい。
濃厚で素敵な休日にしよう。