出会いif「兄さまどこですか?兄さま…栄都兄さま……」
防衛本部のどこを探せばいるのかわからない。まだここには来たばかりでどこに何があるのかも。昨日は栄都兄さまがずっと一緒にいてくれた。でも今日は実践訓練に行くからって言っていた。ラジオ体操の時間にも顔を見なかった。ラジオ体操が終わって食堂で朝ごはんを食べた時もまだいなくて。でも誰に聞いたらいいのかもわからない。兄さま以外の人に興味はない。
(仕方ない……)
闇雲に探したところで見つかるとも思えない。時間を潰してお昼になればご飯を食べに帰ってくるかもしれないと図書館へ向かう。図書館は昨日兄さまが教えてくれた。七瀬は本が好きだからと。本は確かに好き。人と関わらず時間を過ごすには本を読むのが一番だから。
「あ……」
誰もいないと思っていた図書館にマスクをした緑の髪の長身の人がいる。
「どうした」
「べつに。本を読みにきました」
「そうか」
誰だろう。兄さまには紹介してもらってない人だ。じっと見てしまう。
「なんだ」
「いえ……」
手に何冊か本を持っている。分厚いのやとても薄く大きな本や小さな本……まるで統一性がなさそうで不思議に思う。
「小さいな」
「え?」
なんのことを言っているのだろう。
「あんた、混か」
「いえ」
「純なのか……知らないな」
「……純参位、凍硝七瀬です。窒素の志献官です」
「窒素……新入りか。純壱位、塩水流一那だ。塩素の志献官だ」
「純壱位……本、好きなんですか」
「ああ」
変な人だ。純壱位の人は鐵司令代理と舎利弗さんしか知らない。まだ他にもいると栄都兄さまは言ってたけどこの人か。鐵司令代理は普通の人だけど舎利弗さんはすごく変な人だ。純壱位の人は変な人が多いのだろうか。
「面白い絵本がある」
絵本?僕を見てその判断。嫌いな人かもしれない。
「子供扱いしないでください」
「すまない。何を読む」
「……特に決まってはいないです」
「そうか」
「……塩水流さん、実践訓練施設はどこですか」
純壱位なら訓練施設くらい知ってるはず。
「訓練?」
「朝から兄さまがいません。兄さまは今日実践訓練があるから朝はいないと言っていました。兄さまはどこにいるんでしょうか」
「兄さま?」
「酸素の志献官の安酸栄都純参位です」
「ああ……エイトは今日は外だろう」
「外……訓練ではないのですか⁉︎」
「デッドマターと戦ってるだろうな」
僕には訓練って言ったのに。なんでこの人が知ってるのに。
「そんな顔をするな」
「え?」
「今日のは雑魚が湧いて出ただけだ。すぐ戻ると思う」
「はい」
僕の顔を少し見て「これは面白い」と大きな薄い本を僕に差し出す。綺麗な色の花がたくさん表紙に描かれた絵本。この人には全然似合わない。絵本を読みたいわけではなかったけれど差し出されたので仕方なく受け取ると図書館を出て行った。
やっぱり変な人だ。