ぺろぺろガチャリと玄関の施錠が外される音がした。
フローリングの上にぺたりと座って洗濯物を畳んでいた半子はすくっと立ち上がり、玄関先で革靴を脱いでいる青年に声をかけた。
「おかえり、利吉くん」
「ただいま帰りました。お出迎えありがとうございます」
「今日も一日お疲れ様」
「半子さんもお疲れ様です」
利吉と呼ばれた青年はビジネスバッグを床に置き、ニコニコと微笑んでいる半子を正面から抱き締めた。
どうやら彼女は先に入浴を済ませたらしく、微かにフローラルとシャンプーの甘い香りがした。
「お風呂、入っちゃったんですね」
「うん、ごめんね?」
「どうして謝るんです」
「一緒に入りたかったのかな、と思って」
利吉の胸に顔を埋めて半子はぽつりと呟いた。
勿論出来ることなら一緒に入りたかったが、汗だくで先に帰宅をした彼女を考えたらすぐにシャワーを浴びるのは懸命な判断だ。
「でしたら明日は一緒に入ってください。実は帰りに半子さんが好きそうなバスボムを見つけたので買ってきたんです」
「そうなの?ふふ、いつもありがとうね」
「貴女が笑顔になってくれるなら俺はなんだってしますよ」
「本当?じゃあさ、私のここ、触ってくれる…?」
半子は利吉の手を取り自身の下半身に持っていく。突然のことに驚いた利吉は思わず声を荒らげた。
「ちょ!?半子さん何を…!?」
「あのね、触って欲しいの…」
「ど、うしてか理由をお聞きしても?」
「言わなきゃだめ?」
上目遣いで様子を伺ってくる恋人に利吉は目眩がした。へにょりと眉尻を下げ、頬を朱色に染め、甘えた声を出す可愛らしい姿に興奮を覚えない男がこの世にいるなら会ってみたいと思った。
何より今日の半子は何処か様子がおかしい。
職場の同僚に何か言われたのだろうか。
利吉は気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸をし、掴まれている手を取り優しく包み込んだ。
「お願いします。理由を教えてください」
「……………り、きちくんのお母様に言われたの」
「え?」
「たまには私から誘ってみたらって…。それで、その、私なりに利吉くんが喜んでくれそうなことを考えたんだけど…ちょっと、その…大胆過ぎたかもって…。それで…っ、あぁ!恥ずかしい!!」
半子は真っ赤になった自分の顔を利吉の胸に押し付け、彼に見られないよう隠す。しかしそれは無意味な行動で、利吉に顎を掴まれ強制的に上を向かされてしまった。
「俺のために、何をしてくれたんです?」
「あ、ぅ…、その…っ、」
「恥ずかしくて言えないから見て欲しかった?」
「ん。でも、急にどっちも恥ずかしくなってきゃって…。それに、こんなはしたないことして利吉くんに嫌われたらどうしようって、怖くなっちゃって」
あぁ、この人は何処までも可愛い人だ。
自分だって仕事で疲れて帰って来ているのに、わざわざ時間を割いて夜のお誘いの準備をしてくれた。
利吉はそれが心底嬉しくて堪らなかった。
普段は自分に無頓着な半子が意を決して極上のディナーを用意してくれたのだ。彼女の気持ちを無下にはしたくない。
利吉は再び彼女の下半身に手を這わせ、部屋着のショートパンツの中にそろりと指を掛けてゆっくりと下ろす。
「んっ、」
「擽ったいですか?」
「ちょっとだけ。でも平気」
「半子さん」