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    jupi420gab

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    jupi420gab

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    シドクラ
    幸せすぎて不安になってくるヴくんと、とことん甘やかすシドおじ。自分も何かしたいと焦るあまり不安になるし、怖くなってきちゃう。

    現パロ?かも。
    現パロのヴくんも本編と同じく、ひどい過去を持っているのでたまにトラウマスイッチが入る…という自己都合設定があります。

    幸福「俺ばっかりだな」
    「うん? なんだ?」
    「え、……いや、何でもない、何でもないから」
     まさか聞こえていたなんて。起き上がりかけた男の身体を、クライヴは慌ててベッドへ押し返した。
    「クライヴ、こら、無理やり……っ」
    「いいから、寝てろ」
    「頭を打ったぞ? 枕にされるのも悪くはないがな。なあ、何か言ってただろ?」
     シドの言葉に首を振って、クライヴは薄く鍛えられた腹に頭を乗せた。おおい、クライヴ、と呼ぶ声に聞こえないふりをし続ける。
     ゆったりとした時間が流れる、夜の狭間。シドに拾われて数か月。眠りにつく前にシドの身体にくっついてまどろむ時間が、最近覚えたクライヴの“幸せ”だった。
     シドに髪を撫でてもらって、ゆったりと腹が上下するのに合わせて呼吸をする。そうしていると体が暖かくなってきて、心が満たされて、いつのまにか眠ってしまう。
     少し前までは夢を見るのが怖くて、一人でいるのがおそろしかった。これまでに出会ってきた人間は、みんなクライヴを物のように扱うばかりだった。クライヴの身体はもちろん、心までをも痛めつけて弄び、クライヴの気持ちなんてお構いなしだ。でも、今は。
     シドの腹を撫でながら、クライヴは小さく囁いた。
    「幸せすぎる……」
    「それで悩んでるのか?」
    「だって、俺ばっかり……だろ。俺がいろいろ、その、昔のことで苦しくなって、つらくなったらいつもあんたがいてくれる。助けてくれる。いつも傍にいてくれるし、……うれしいけど、でも」
    「俺が負担ばかりかけられてるって?」
    「そうじゃないのか?」
    「はあ、なるほどねえ。それがお前の悩みか」
     頭上から降ってくる声は感心しているというよりも、楽しんでいるような口調だ。見上げると予想通りの笑みが返ってきてクライヴは眉間にしわを寄せた。
    「もういい、どうせ……」
     どうせ、子どもっぽいとかなんとか、思っているんだろう。実際その通りだが――甘えさせてもらって、その状況を大いに楽しんでいるくせに、ふとした瞬間に不安に陥る。我ながら感情の起伏が大きくて気持ちが追いつかない。あと2年もしたら30歳を超えるというのに。
    「すねるなよ。お前が思うよりも、俺は幸せを感じてるんだがな。分からんもんかね」
    「……わからない」
    「伝わってないもんなんだなあ……。どうすればいいんだ?」
    「俺に聞くな。そんなの知るわけない。だから考えてるんだ」
    「そうかい。例えば、こういうときはどうだ? クライヴ、お前は」
     促すように頬に手のひらが添えられる。クライヴが身を起こすと、静かにシドの顔が近づいてきた。そっと触れて、また離れて。口づけを繰り返しながら、音を立てて軽く唇を吸われた。薄く口を開くと、弄ぶように舌先を絡めとられて唾液があふれる。耐えきれなくなってシドの肩をたたくと、ようやく唇が離れた。
    「……っ、う、うう……なんで、いつも……」
    「よくなかったか」
    「そうじゃない……! いや、違う、違わないけど……ああもう、くそ、俺だって」
    「おっ」
     ――やり返してやる。自分にだってできる。
     勢い込んでシドの手首をつかみ、壁側に押し付けてみたものの、そこでクライヴは動けなくなった。さっきのようにキスをしてもいいし、ベッドに押し倒したっていい。でも、どうしてか動けない。
    「クライヴ、まだか?」
    「……っ、いいから黙ってろ」
     言葉をふさぐように唇を近づけ、膝に乗り上げて追い詰める。でも、シドは力を抜いたままだ。無理やり手を掴まなくたって、キスくらい簡単にできる。でも、どうしても身体が動かない。ここまでお膳立てされても動けないなんて、悲しくなってくるくらいに。
    「怖いか?」
    「違う、そうじゃない、……けど」
    「あともう少し、近づくだけだろ?」
    「……っ、う、……。でも、……し、シド……っ」
    「よしよし、大丈夫だ」
     手を離すと、背中にシドの腕が回される。なだめるように背中を撫でられ、きゅっと引き寄せるように抱きしめられてようやく、息ができていなかったことに気づいた。
    「シド……」
    「クライヴ、こっちを見ろ。もう平気だろ」
     顔を上げると、間近に寄せた瞳が、柔らかく微笑んでいる。それに少しばかり勇気づけられて、クライヴは初めて自分から唇を少し触れさせた。軽く触れるだけの口づけ。こんなことがしたいわけじゃなかったはずなのに。
     シドの肩口にもたれて、クライヴは顔を伏せた。泣きたくて仕方がなかった。でも溢れる感情を見せたくない。どうすればいいか、どうしてこうなったのか分からない。
    「よくできました」
    「全然、できてない……っ」
    「可愛かったよ。俺は幸せ者だ」
    「……っ、そんな、の、嘘だ」
    「嘘じゃない。なあクライヴ、わからないか?」
     シドに言われて、クライヴは目を開いた。ぼやけた瞳に映るシド。クライヴの身体を抱き込んで、優しさを教えてくれる。
     髪を撫でる手は、いつものようにやさしい。
     頬を撫でる手のひらは、昨日よりもずっと暖かい。
     触れた唇は、さっきよりもずっと甘かった。
    「……わかった、かも」
    「かも?」
    「いや、……わかった」
     シドの腰につかまって、頭をぐり、と摺り寄せると「かわいいやつ」と楽しそうな声が降ってくる。それすらも嬉しくて、くすぐったさを覚えた。
    「あんたが幸せなら、……俺はもっと、もっと幸せなんだな」
    「まだまだ、こんなもんじゃないけどな、クライヴ。もっと分からせる必要がありそうだ」
    「……教えてくれ、もっと、……ずっと、教えてほしい。分からせてくれ、俺に」
     額を近寄せ、唇をそっと触れ合わせる。ただそれだけでよかった。何も望まないし、望んでもいない。ただ、こうやって一緒にいて、体温を分け合うだけで。
    「いつまでだって付き合ってやるよ」
    「うん……」
     素直な返事は、クライヴ自身を満たしていく。幸せの作り方を、もっと知りたくてたまらなくなる。


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