幸福「俺ばっかりだな」
「うん? なんだ?」
「え、……いや、何でもない、何でもないから」
まさか聞こえていたなんて。起き上がりかけた男の身体を、クライヴは慌ててベッドへ押し返した。
「クライヴ、こら、無理やり……っ」
「いいから、寝てろ」
「頭を打ったぞ? 枕にされるのも悪くはないがな。なあ、何か言ってただろ?」
シドの言葉に首を振って、クライヴは薄く鍛えられた腹に頭を乗せた。おおい、クライヴ、と呼ぶ声に聞こえないふりをし続ける。
ゆったりとした時間が流れる、夜の狭間。シドに拾われて数か月。眠りにつく前にシドの身体にくっついてまどろむ時間が、最近覚えたクライヴの“幸せ”だった。
シドに髪を撫でてもらって、ゆったりと腹が上下するのに合わせて呼吸をする。そうしていると体が暖かくなってきて、心が満たされて、いつのまにか眠ってしまう。
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