希望は絶望の手中に(クラマホカビ)「ネェ、カービィ。パンドラの箱って知ってル?」
そう聞けばキョトンと無垢な瞳でボクを見つめてくル。知らない、のダロウナ。食べ物?と無邪気に問いかけてきタ。
「チガウヨォ。どこかの星で語られル、ありとあらゆる災いを封じた箱を神様が作って持たせたんダ。ケド好奇心から人間の娘が開けちゃうんダ。色んな災厄が全部外に出ちゃったケド、慌てて閉めたおかげで希望ダケが残るトイウお話ダヨ」
ポップスターには災厄だとか悪意なんてモノ、存在しないらしいケレド、他の星は星内で争いが絶えないんダヨ。ホーントその娘はバカなコトしちゃったネェ。争いや不和、疫病や欺瞞などといったモノをせっかくカミサマがまとめて封じ込めてたのに、世界にぶち撒けたんだカラ。
とはいえ、箱の奥底にあった希望ダケは、慌てて閉めたから箱からは出ず残っていたミタイ。
そんなふうにかい摘んでオハナシをしてやると、カービィは青い瞳をパチパチさせながら傾げた。ヤッパリ悪意がよく分からないんだろうナ。理解出来ないモノを分かるように説明するのは、難しいし不可能ダ。昔のボクが今のボクのように、力を振りかざして脅すミタイにネ。
「ナンデ希望ダケが残っていタ、イヤそもそも一緒に封じられていたんだろうネ」
希望が輝くのは、窮地に追いやられて絶望の景色を見せられているからダ。つまり退屈な日常に希望ナンテ必要ナイ。それ故に災厄と共に封じられたのカモしれないネ。
箱の中に残ったモノが希望ナンテ、全く笑っちゃうハナシダヨ!
マァ一説では希望ではなく予知が封じられていて、箱に残ったから可能性を信じられるトイウ説もあるそうダケド。
「今のカービィとそっくりダネェ」
ボクの大きな片手はカービィカラすれば箱庭のヨウ。すっぽりと包める手のひらで、まるでカービィを閉じ込めるようにそっと握ル。カービィのお餅ミタイな身体が手に伝わって、イツマデも触り続けていたいくらいダ。
マスタークラウンを手にしたボクは、カービィたちに勝利シタ。元々の予定通り星々を支配しているケレド、カービィがいてくれるカラ、ポップスターには手を出してイナイ。カービィのいないあの星は、今も呆れ返るほど平和で暢気な住民たちばかりなのダロウ。一部を除いテ。
モチロン、カービィを可愛がっているつもりダカラ、毎日美味しいご飯もオヤツも食べさせて、3食オヤツお昼寝付のVIP対応ダヨ。
足枷を嵌められて逃げ出せない以外はネ。定位置はボクの片手か頭の上で、毎日を過ごしてイル。
カワイソウにネ。ボクに好かれ敗れたばかりに、魔術で弱体化させられテ、こうして憎きボクの側にいるしかナイナンテ!
ダケド、ボクは幸せダ。キミがスグそばにいるんダカラ。
例え憎まれてもイイ。ボクを忘れるくらいナラ。でもキミはアクイとは無縁だから、コウヤッテ毎日不自由ナ思いしないと忘れるんデショ?
キミはボクが正体を現して裏切ったアノ時と同じようにキョトンとした顔で、ボクの愛を受け入れていル。
ナァニも知らなかったあの頃と変わらない、純粋無垢を宿した瞳はまっすぐボクを映していタ。
例外デ新しい星を支配シタ、と報告すると勇ましい顔を見せテくるケド。今ではナァニモできないユウシャサマなのにネ。
「キミはボクと永遠を過ごすンダヨ」
マスタークラウンという遺物に手を出しタ。ズット欲しかった全てを支配できる無限の力。お人好しの生命体と言ってモ過言じゃないカービィに抱いた情。欲張りなボクはドッチも欲しくなってシマッタ。
この力があればドチラも手に出来るんじゃないかと思って実行したら、思っていたトオリ支配者もカービィも手に入って夢みたいダヨォ!
──ソレは本当に望んだコト?
宇宙の支配者はイツ望んだコトダッタ?分からナイ。散歩のツイデに星を支配スルのは、モウ手慣れてシマッタ。ボクはナニがしたかったノカナ。
ダケド。ボクだけの星で希望は目を離したラ、牙を……いや剣を向けてキソウ。飛び出さないようにシッカリ封じておかないとネ。
ボクはパンドラみたいなヘマはシナイ。希望は常に絶望の手に握られておくべきなんダ。大事なモノは奥底ではなく、目の届くトコロ手放さないのが鉄則ダヨ。
クックック、大好きダヨ。ボクの愛するカービィ。キミはボクの────。
了