薄利多売の投接吻見目の麗しい若いおとこの繰り出す、薄利多売の投げ接吻。
一つ投げれば左から黄色く、もう一つ投げれば右から黄色く。おんな達の悲鳴にも似た声で粘膜の色をした天幕のビロウドが波打つ。重く立ち込めるようなその赤い色から月島は目を逸らした。
「こんなものの、何がいいんだ」
鯉登は梯子をこともなげに降りて、月島の差し出す手ぬぐいで乱暴に汗を拭う。たったそれだけのことで、おんなたちはむず痒がるように首をすくめ、将校さま、鯉登さま…と囁く声がさざなみのように天幕の空気を震わせる。月島はおんなたちの呼吸の一つひとつで酸素が薄くなるように感じた。
「さぁ、わかりかねます」
見目の麗しいおとこは何をしてもおんなたちの視線を集めるらしい。月島は遠い世界の出来事のようにそのかしましい声を聞きながら舞台袖へと向かう。
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