与う 昼日中の飲み屋街にも太陽は等しく注ぐ。無造作に投げ出された半透明の45Lのゴミ袋も、空になって積まれた銀色のビール樽も、誰かの苛立ちと時間の経過を示す煙草の吸い殻も、何もかもが明るみの中では薄っぺらく見える。小さな店屋が肩をぶつけるようにして並ぶこの飲み屋小路もまた、懐古主義者が作ったジオラマのような佇まいで同じように陽の光に照らされている。
月島は自転車を軋ませて降り、荷台に括りつけたトロ箱を降ろす。まだ肌寒さの残る季節だが、魚と共に中につめ込んだ氷が少しだけ緩んだ音を立てた。春は近い。
望んだ訳でもないというのに、今生もあの島に生まれてしまった。荒い波が岩を洗うあの海で獲れた魚介類が特別に美味いものだと知ったのは、なんとか身ひとつで[[rb:こちら > 東京]]に来て、安い居酒屋で刺身を食ってからだった。別段味にこだわるたちでは無いが、そのせいか魚だけは仲卸まで足を運んで買わずにはいられない。
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