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    神話っぽいもの。巨人ウハ殿と生贄にこちゃん+ちょっと神父殿。

    ユンゲラウフラッハの巨人と贄の女 霧深く緑豊かなユンゲラウフラッハの森の奥、地の国へ通じるとされる滝壺のそばの洞窟に巨人アンドレアは住んでいた。薄紅の髪に薄荷色の瞳を持ち、城塞の塔ほどの背丈の巨躯であった。
     厚い衣をいつか矮小なる人々に作らせ、それを身に纏って過ごしていた。
     この地は冬となれば雪深い地であり、常に寒々しく静けさを湛えた地であり、人の行き来は少なかったが森のそばにはいつも矮小なる人々が暮らしていた。巨人アンドレアはよく食べ、よく眠るが非常に賢く強靭であった。彼はさほど親切ではなかったが、彼の中で折り合いがつけば矮小なる人々に手を貸すこともあった。
     食料や肉を望んで、願いに相応であれば叶えてやることもあった。時として人を寄越すように告げることもあり、とかく巨人と矮小なる人々はそうして暮らしていたのである。

     約束は時と共に形を変える。巨人の元に人々が訪れることも減り、数十年が経った頃には巨人は人を食う魔物として恐れられ、巨人はといえば滝のそばに静かに暮らしていたのであったが。
     
     巨人アンドレアの静穏なる暮らしの終わりは突然であった。
     ねぐらである洞窟のすぐ前、滝壺の淵に女が捨て置かれたのである。
     
     ◇◇◇
     
     ある朝である。
     滝壺の方で何やら矮小なる人々の気配を感じ、歩み出てみれば随分年老いたものたちが一目散に駆け去っていくのを見て訝しみ首を傾げ、滝壺の淵に置かれたそれを見た。
     棺を埋める花の褥に、女が目を閉じ横たわっている。
     歳の頃は十五〜十六ほどであろうか。花嫁衣装に似た白く煌びやかなひと繋ぎの長衣が朝日を受けて輝いている。
     赤茶の肩より短い髪は丁寧に櫛を通されたように整っている。白い顔は血色がいささか悪く、丁寧に化粧こそ施されていたが唇は水分が抜けており、薬で深く眠っているのか寝息はひどく静かであった。
     
     「生贄か、久しぶりだな」
     巨人の時の流れは矮小なる人々より悠然と長く、人々のそれがせせらぎであるならば巨人の時の流れとは大河のように緩やかに長い。
     少し眠る間に村の面々の顔ぶれが変わることもままあった。しばらく寝ていたので当座は眠ることもあるまい。巨人は女が目を覚ますのを待って、その間に森の獣を少し狩って食べた。
     女が目を覚ましたのはその夜のことである。榛色の猫のように大きな瞳が巨人を見て、恐怖に泣き出すかと思いきやじっと見上げているのを見返し、尋ねた。
     「あんたが森の巨人?」
     「そう呼ばれているな」
     女の背丈はこの辺りで最も低い木の半分程度であり、巨人の背丈はその五倍程度である。獣の近寄らぬ森の夜である。女のよく通る声は巨人の耳にも届き、鷹揚に頷くと女はあまり興味もないように相槌を打った。
     「お前は生贄だろう。言っておくが人間の子供なんぞよこされても困る。村へは帰りにくいだろうから森の反対の集落へ連れて行ってやる。あちらで暮らせ」
     「どこも同じよ。今は飢饉なの」
     そうだったか、と隣国では雨であると聞いたような軽さで受け流すと、ではどうする、と尋ねる。
     「しばらく置いてよ。どうせ暇でしょ? 外の話でもしてあげる」
     捻り潰すのも容易かったが、特にそうする意味もなかった。外の話は多少興味があった。ここで暮らす中で矮小なる人々の営みは稀に差し障りもあった。
     「私はにこ。あんたは?」
     「デルウハ」
     矮小なる人々に呼びやすい通り名である。アンドレアの名を呼ぶ者も絶えて久しかったが、あえてこの娘に呼ばせるわけもなかったがゆえ。

     にこは木の実と果物を食べて、洞窟の隅に眠った。棺をそのまま寝床にしているようであった。
     時折服を洗っているようで、その間はしばらく洞窟の隅から出てこなかった。巨人が数日に一度極浅い眠りについているうちに水浴びをしているようであった。
     
     外の話、と言ったがにこの世界はごく狭く小さかった。住んでいた村での暮らしぶり、歳の近い娘たちも方々に口べらしに出されたこと、男ばかり連れて行かれてもどらないことなどを少し大袈裟に語って見せた。伝え聞いた物語などの空想も多分に含まれていた。
     さほど珍しい話でもなかったが、にこの食べる量は巨人の足元にも及ばず、声も小鳥とさほど変わらないので放っておいた。
     
     じきに冬がやってきて雪がちらつくと、洞窟から出なくなった。
     彼女に必要なのは火と肉であったが、あいにく巨人は火を必要としなかった。静かにうずくまるようになったにこに声をかけると、緩慢な仕草で降り仰ぐばかりになった頃である。
     若い男が洞窟を訪ねたのである。金の髪の若い男。森に迷い込み、洞窟で雪を凌ごうとやってきた。
     男は春の名を冠しており、にこに持っていた食料と滋養のある薬を与えた。巨人の威容と実在に恐れ慄いていたが、目の前の弱者を助けることを選んだ。

     春になったらここを出てよその村で暮らせるようにするという提案ににこは随分抵抗したが、結局は巨人が二人を森からつまんで放り出した。
     にこは随分痩せてしまっていたし、巨人は冬を迎えて眠かったのである。
     
    ◇◇◇
     
     にこのいなくなった洞窟で巨人は眠り、矮小なる人に生まれてにこと家庭を持つ夢を見た。
     小さな、指で弾けば消し飛ぶような家に二人で暮らし、小さな子供に囲まれて、同じ鍋から食事をとる。身を寄せ合ってつがいらしく交わり、季節を問わずそうして過ごした。
     数年をそうしてうとうとと夢の汀で過ごして、目を覚ましたのは夏である。
     初夏のベリー摘みの歌を遠くに聴きながら目を覚ますと、滝壺のそばに小さな家が建っているのを見てこれは何かと辺りを見回す。
     かごいっぱいの木苺を抱えて森から帰ってきた背ののびたにこが手を振ってデルウハと呼ぶのを聞く。
     血色は良く背も伸びて、家は建ててからまだ間もないようであった。一体いかなる手段を使ったのかと訝しんだが。
     
     小さな家に二人で暮らすことはなかったが、森の奥でにこのせせらぎの絶えるまでいささか賑やかに二人で暮らした。
     
     

     
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