Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    reload50

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    reload50

    ☆quiet follow

    呼吸法げんみ✖️
    シナリオ直後のお話(二次創作)

    君に贈るは紫色 目が覚める。自分が身を沈めていたベッドの隣を見れば新がいる。それは、同居してから何一つ変わらない当たり前と化した光景。
     だが目の前の新はもう甘えん坊じゃない。真の後ろをずっとくっついている訳ではなく、一人で行きたい場所へ行ける。言って欲しい言葉じゃなくて、新が思った事を本人が直接言えるのだ。
     ここは自分が望んだ新しい優しい世界だから。
     じっと寝顔を眺め続ける。これが他の人間なら寝顔をわざわざ見ようなんて気持ちにすらならないだろう。新だから、飽きもせず見続けられる。何回心地よく胸を上下させるか数えるだけでも、ひどく楽しい。
     正直一生見ていられる気がするが、あと五分経ったらコーヒーを淹れに行こう。冷蔵庫にサラダを用意して、昨日一緒に買ったパン屋の食パンに乗せる目玉焼きとベーコンを焼き上げて。新はもう覚えていないけれど、沢山我慢させてしまった分美味しいものを食べさせてあげたい。
     昨日はその気持ちが先走りすぎてしまい「もうこれ以上食べれないって」と少し困った顔をさせてしまったので、暴走しないように気をつけないといけないが。
    「……まこと?」
     なんて考えていれば、穏やかに呼吸をしていた筈の新と目が合った。
    「おはよう。あぁ……ごめん、ご飯作っとこうと思ってたんだけど新の顔見ていたらタイミング逃しちゃった」
    「別に、良いけど……って何、俺の顔見てたの?」
     まだ覚醒しきっていないトーンで話していた新は、途中で普段通りの声色へ戻っていく。そしてすぐに、んっと言葉を飲み込んだ様な顔をした。恥ずかしがり屋の彼の事だから、自分の意識が無い所で見られていたのが不服だったのだろう。
    「うん、可愛くてずっと見ちゃってた」
    「そ、そんなの見るな……!」
     顔を赤らめたと思えば、すぐに両腕でガードされてしまった。こうなってしまえば今は近づくのも難しい。見つめる以上の事だって許しを得てから何度だってしているはずなのに。いまだにすれた反応をしない自分の恋人は、とても可愛い。
    「もっと見てたかったけど、仕方ないなぁ。ご飯用意してくるからもう少し寝てていいよ」
    「あ、俺も手伝う。真ばっかにさせるのもなんか悪いし」
    「良いよ、って言いたいところだけど……新が淹れてくれるコーヒー好きだし、お願いしようかな」
     そう言えば、新はパッと顔を上げて「任せろ」と笑顔を見せた。もう先ほどまでの赤ら顔は無くなっている。あんまり虐めすぎるとムッとしてしまうから我慢したが、やっぱりもう少しからかっててもよかったかな、なんて思いながら共に寝室を後にした。

     同棲を始めてまだ三ヶ月しか経っていないが、家事の分担、共同はとても上手くいっている。テキパキとお互いに食事の準備を行い、二人で並べられた朝食の前で手を合わせた。
     新が淹れてくれたコーヒーをこくりと飲み込む。今の真に人間と同じ食事は必要無い。けれど食べなければ新に心配されてしまうから、人間だった頃の真似事をする。
     それに、新と食事をするのは昔から好きだから。もし新に自分の状況が知られたとしても、共に食事をするのは続けるだろう。
     そこまで考えて、もし新は自分が人間では無くなったと知ったらどうするのだろうと至極当たり前の事を今更ながら思い至る。あまりにも当然の様に、真は新を手放すつもりはなかったし新も自分から離れないだろうと思い込んでいた。
     けど、もし新が人間じゃなくなった自分に恐怖心を抱いてしまったら? 離れたいと考えられてしまったら? その時、自分はどうすればいいのだろう。
    「……真? その、顔色悪いけどどうかした? ご飯おいしくなかった? それとも嫌な事でも思い出した、とか?」
     ぐるぐると混ざり始めた思考は、こちらを心配そうに伺う新の言葉によってハッと中断される。
    「あ……いや、うん……思い出したっていうか……ちょっと怖い想像して……」
     どう言えば良いのか、そもそもぼかしたとしても言って良いものなのか。迷っているせいで歯切れの悪い物言いなってしまう。
    「んん……それは、俺が聞いても良い、やつ?」
    「全然悪くはないよ。ただ、急に弱気になって。……その、新はさ。例えばだけど俺がどんな姿になっても、ずっとそばにいてくれる?」
    「え、何言ってんだよ。当たり前だろそんなの。……今更何?」
     一息もつかず、新は肯定する。それは「明日も太陽は登るよね?」と聞いた人に「登らないわけないだろ」と答える様な、当たり前すぎて急に何を聞いてきているんだとばかりの答え方だった。
    「っはは、そう、だよね。うん。新って昔からそうだった」
     隣に座っている新の身体を抱き寄せる。食べかけていたパンが新の手を滑って皿の上に落ちた。「わっ!?」と新から驚きと困惑が混ざった声が上がる。けれど、今すぐ解放してしまうと真の泣き顔を見せてしまう事になる。それは恥ずかしいから、寧ろ強く抱きしめ直した。
    「真……? 本当に今日はどうしたんだよ」
    「新が居なくなる夢みたいなのを見たからかな。すごく不安だったみたい」
    「何言ってるんだ、俺が真のそばを離れる訳ないだろ」
    「そうだね。うん、知ってた」
     今よりも強く抱きしめたら、息をするのが苦しくなるかもしれない。でも、もっともっと。一寸の隙間も無いくらいに新とくっついて、体温を感じていたかった。
     誰よりも愛おしい恋人で、大切な兄さん。自分を救う為に、神へ身を捧げようとした愚かな兄さん。大好き、大好き。
     きっと新なら、恋人が人間で無くなったとしても愛してくれる。
     ああ、ずっと我儘を言い続けてからこれからは自分に甘えて欲しいと思っていたのに。またこうして甘やかされている。けれど、それが堪らなく甘美で、手放し難い。
     あの神へ新を渡さなくてよかった。自分を捧げる事で、もう二度と新とは会えない覚悟でいたけれど。でもこうして、今は側で新を想う事ができる。
    「もし離れたくなっても、一生離さない」
     ようやく涙が乾く。至近距離のまま新を見つめた。暗い藍色のような瞳は、目前にある人間の皮を被った、一人の人間に執着し続ける愚かな存在だけを映していた。
    「愛してるよ。誰よりも、何よりも。ずっとずっと、僕は新だけを見てる」
     返事を貰う前に、柔らかな唇を塞ぐ。恥ずかしがる姿も大好きだけれど、どうしても今キスしたかった。
    「き、急……!」
     口をぐにゃりと曲げ、こちらを見やる。可愛い顔まで見れて、自分の機嫌が分かりやすく上がったのを感じていく。
     あぁ、誰にもやるものか。新も一生、僕だけ見てればいい。



    呼吸法 エンド「紫苑」
    紫のシオンの花言葉「時が経つのを忘れて」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏😭💴🙏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works