「眠れないのかね。エナドリ飲みすぎだろう。」
「うるせーよ。」
ソファベッドに横になって随分経つというのに、ロナルド君は眠れないようで何度も寝返りを打っている。
布ズレの音を背にゲームに興じていた私のシャツの襟をロナルド君がつん、と引いたので、ゲームの電源を落とした。
「子守唄をご所望かな?」
ふわふわとした重力を感じさせない銀髪を撫でれば、
「余計眠れねぇわ。」
と、失礼な言葉。
「……ふむ、それでは寝物語などはいかがかな?」
「寝物語?」
「眠りにつく子供に、親が語り聞かせるお話だよ。」
「ふーん……。」
少し頭を動かして私に近づき、大人しく聞く姿勢に入ったロナルド君のまあるい額にキスをして語り始めた。
ある町に男がいた。
彼は町を守る守り人で、日々町のためにその命を燃やしていた。
時には笑い、時には涙し、またある時は寝食を忘れ、ある時は醜態を晒した。
町の者たちは皆彼を慕い、彼の仲間たちもまた、彼を慕っていた。
ある日住処を失った旅人が町を訪れ、住処を提供してくれた守り人の日々を目の当たりにし、そして思った。
何と言うことだ。
町の者たちは皆、守り人の命の火が燃え尽きようとしていることに気づかないのか!
食べもせず眠りもせず働くなど、死にたがりのすることだ!
それから旅人は守り人の世話を焼いた。
食事を、寝床を、全てを整えて守り人を癒した。
初めは訝しんだ守り人も、やがて心を開くようになり、瞳に光が、頬に赤みが差した。
そうして命の息吹を吹き返した守り人は、今日も町を守る。
自らの命を削ることなく。
「……その守り人は魔除けの赤い服を着ていたそうだよ。」
「……。」
ロナルド君はむず痒そうに眉を寄せた。
「……俺ってそんな風だったのかよ……?」
「んっふふ、さぁ、どうかな?」
眠れそうかい?
と額にキスをすれば、
……お前が一緒なら。
と言って布団を捲る。
「かぁわいい。」
誘われるがままベッドにあがり、そのたくましい背に腕を回す。
「さっきの話、アルマジロが出てこなかった。」
「不服かね?可愛いマジロが登場したら語りすぎて夜が明けるからな。」
「それもそうか。」
あったかいねぇ、と頬を寄せ、明日はお休みだったねぇ?と嘯けば、そんなわけねぇだろ、と額をゴリゴリと当ててくる。
痛い痛い死ぬ!と笑いながら、柔らかく口付ける。
一緒に眠って一緒に起きて、明日は何して過ごそうか。