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    ししとう

    @44toshishi

    支部にあげるほどきちんと書いてなくてTwitterにあげるには文字数が多い書きたいところだけ書いたものを投げる供養場。

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    ししとう

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     帰ってきた気配はした。
     だがいくら待っても居住スペースのドアは開かない。
     調理の手を一旦止めて、タオルで手を拭きながら事務所を覗く。

    「どうした若造。帰ってきたなら早く──。」

     手を洗え、と言いかけたところで言葉が詰まる。
     真っ暗な事務所の壁際、入口のドアの横でメビヤツを抱きしめるようにロナルド君が座り込んでいた。
     メビヤツは助けを求めるように潤んだ大きな瞳で私に視線を寄越す。

     ──仕事で何かあったのか。

    「若造、メビヤツを困らせるんじゃない。」

     そう言って背を撫でるが、ロナルド君はメビヤツを抱きしめる腕に力を込めるだけで顔を上げようとはしない。
     やれやれ重症のようだな、と帽子を取ってメビヤツに被せ、あとは任せたまえとメビヤツをスリープモードにする。

    「…私はこっちだ、若造。」

     沈黙したメビヤツを抱きしめている腕を撫で、

    「確かに君のナイトはメビヤツかもしれんが。」

     銀髪から覗く耳先にキスをする。

    「君の恋人は私だろう?」

     妬かせたいのかね?と言葉を続けると、小さな声が返ってきた。

    「……ダメなんだ。」
    「何が。」
    「こ、恋人じゃ、ダメなんだ。」

     震える声でその言葉を吐き出すと、ロナルド君の肩が震えた。
     泣いているのだろう、時折鼻をすする音がする。

     ──この泣き方は、いかんなぁ。

     ロナルド君が静かに泣く時は、心を閉ざして殻にこもる時だ。

    「ロナルド君。私は君の手を離す気はない。君だって分かっているだろう?」

     ロナルド君を抱きしめ、耳元で囁く。

    「…私との約束は?それもキャンセルかね?」

     ロナルド君の肩がびくりと震える。ゆっくりと上げられた顔は涙や鼻水でぐちゃぐちゃだ。
     手を拭いていたタオルで雑に拭ってやる。
     それでも後から後から涙は溢れ、頬を濡らした。

    「…ダメなんだよ。」
    「だから何がだね。」
    「…気を、とられて。」
    「……?」
    「怪我、させちまった。」

     懺悔のような独白が続く。

     ──お前との約束が、気になりすぎて。
     ちゃんと、やってたんだ。
     でも、一瞬だけ、一瞬だけ気を取られて、隙ができて。
     庇ってくれたサテツに怪我させちまった。
     かすり傷だし、おあいこだから気にすんなってサテツは言ってくれたけど、ダメだろ。
     俺があの時気を抜かなけりゃ、サテツに怪我なんかさせなかったのに。
     俺が、あんな。

    「だから。」
    「私と別れると?」
    「だって。」
    「断る。」

     なおも何か言いかけた唇を塞ぐ。
     抗いかけた手はしかし、私のシャツを掴むだけ。

     あんな縋るような目をしておいて、でも君は私への気持ちを心の奥底へ押し込めてしまうのだろう。罪悪感に押し負けて。
     させるものか。
     そんな罪悪感など、私が拭い去ってみせるとも。

    「…ロナルド君。たらればの話はやめろ。」
    「……?」
    「君が仕事中に気を抜いた。だから腕の人が怪我をした。これはもうどうしようも無い事実だ。そうだな?」
    「……。」
    「君はもちろん謝罪したのだろうし、腕の人はそれを許した。これ以上何の問題がある?」

     私の言葉に、ロナルド君が目を伏せる。

    「そんな風に割り切れねぇ…。」
    「だろうね。」

     そんな芸当ができるなら、君は今泣いていない。

    「それでいい。その気持ちを忘れるな。ミスは誰にだってある。次に活かせ。ミスをしたからこそ次の失敗を防げるのだ、違うかね?」
    「……でも。」
    「君の気持ちに折り合いをつけるのは君にしかできない。私が君にできるのは、考え方の筋道を立ててやることと。」
    「……?」
    「 押し込もうとしている私への感情を引きずり出すことだけだ。」
     
     そう言って唇を深く塞いだ。
     ずろりと長い舌を喉元まで滑り込ませれば、くぐもった苦しそうな声がして、シャツを握る手に力がこもった。
     バックルに手をかけ、カチャリと外す。
     インナーの裾を引っ張り出し、中へ手を滑り込ませた。

    「ちょ、何す…っ!」

     唇を引き剥がし、ロナルド君が私の手を掴む。

    「分かるだろう?」
    「いや、分かるけど、今日は。」
    「聞こえんな。」
    「やめろって!」
    「私との行為と、腕の人への贖罪に、なんの関係があるというのかね?」

     ロナルド君の目を真っ直ぐに見つめて、言葉を連ねる。

     ──世の中の愛し合う者たちは皆聖人君子か何かかね?
     ミスをしない、間違いも犯さない、ルールからは逸脱しない。
     そんな者達ばかりだとでも言うのかね。
     仮に一人や二人そんな者がいたとして、彼等は生まれた時から完璧で有り得たと思うかね?
     皆失敗を重ね、そこから学ぶのだ。
     失敗をしない者などいない。
     失敗せずに成長する者もいない。
     君も失敗していい。
     失敗してはいけない理由などない。
     だが立ち直れない、そんな時ももちろんあるだろう?
     そんな時は、泣いていい。
     縋っていい。

    「その為に私がいるのだ。違うかね?」

     私の言葉にロナルド君の瞳が涙に揺れる。

    「愛してるよ。」

     柔らかく口付けて、ゆっくりとインナーの中の肌を撫でる。
     ロナルド君が私の手を止めることはなかった。
     口付けながらベルトを外し、前を寛がせる。
     すでにゆるく立ち上がりかけたそれは、布越しで触れただけでみるみると硬度を増した。
     ウエストを少し下げ、直接触れる。
     私の手が動く度に漏れ出る声。
     荒くなっていく息は熱い。

    「……も、出…っ!」
    「いいよ。」

     強く扱き上げてやれば、ロナルド君は身体を震わせ、勢いよく生あたたかい体液を放った。
     ぜえぜえと荒い息を繰り返しながら、脱力した手がだらりと下がる。

    「あ…すまねぇ、汚した。」

     黒いエプロンに飛び散った白い跡にロナルド君が詫びる。

    「構うものか。それより落ち着いたなら食事にするかね?あぁ、風呂が先か。」
    「えっ…。」
    「何だね?」
    「いや…その。」

     ロナルド君は何やらごにょごにょと言葉を濁している。

    「何だ。言ってみろ。」

     促すと、顔を真っ赤に染めたロナルド君が、ちらりと視線を寄越して、

    「約束…。」

     とだけこぼした。
     その意味はすぐにわかった。
     続きは?と。

    「今日は大人しく食事をして寝ろ。なに、また後日改めて──。」
    「な…慣らしてんだけど。」
    「……は?」
    「う、上手くできてるかはわかんねぇけど…。」
    「ちょっと待って。タイム。」

     え、待って。
     慣らしてる?
     ロナルド君、今、慣らしてるって言った?
     いや、確かに今日初めてを迎えようと約束はしたぞ?
     その為にジョンにたらふくホットケーキを貢いだし、ヒナイチ君や半田君も乱入しないように手筈は整えたし、キンデメさんの水槽には布をかけたし死のゲームの電源も落としたし、予備室の準備もバッチリだが?
     どういう風にどうするかなんてまだ話し合ってもないし。
     え?ロナルド君そっちで良かったの?
     なんならさっきので今日はこのくらいにしておこうかなんてジェントルムーブ出そうとか思ってたんだが?
     んん?
     可愛い。
     無理。
     降参。

    「え…っと、悪ぃ、何でもない。そ、そうだ飯!腹減った!」

     慌てたように立ち上がろうとしたロナルド君のズボンを掴む。
     私の力ではもちろん勢いは止められないが、ベルトは外してあるのでズボンがストンと下がり、足を取られたロナルド君が転ぶ。

    「……そっちで、いいんだな?」

     エプロンの紐を解き、首から抜いて床へ放り投げる。

    「ドラ公…?」

     尻もちを着いているロナルド君ににじり寄り、派手なパンツの腹ゴムに手をかける。

    「えっ?えっ!?ちょっと待てよおい!」
    「待てん。無理だ。」
    「ドラ公!」
    「大人しく私に抱かれてろ。」
    「風呂とか!」
    「構うものか。煽ったのは君だし。それに。」
    「……?」
    「約束、したものね?」

     約束にかこつけて、ベッド以外で事に及ぼうなどと、ジェントル違反も甚だしい。
     だが、今ロナルド君を抱けないのなら、ジェントルなどクソ喰らえだ!
     風呂だの飯だの騒ぎ立てる唇を塞ぎ、ゆっくりと冷たい床に二人で倒れ込む。
     風呂も食事も何もかも、全ては愛し合ったその後で。
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