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    risa50882145651

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    risa50882145651

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    支部で2月~3月くらいに書いていて今は消した
    s君とパイセンの話「卑しい猫と鼠の王」の再掲です。
    当時書いていた一連のものの最終話です。
    ※当然ですが、当アカウントで公開しているものは全て妄想であり、公式や各権利者等とは一切関係ありません

    9話(最終話)「学校」「……休学するって?」

    床に座った体勢から視線だけやって見上げると、いつの間に入ってきたのか、カキツバタの腰巻があった。わざわざ夜中にここに来て、彼がいつものテーブルに居ないことを確認して、ようやく安心してロッカーや棚などに置きっぱなしの荷物の整理を始めたというのに。

    「……今まで、ごめんな」

    目を逸らして荷物の整理を続ける。どうしても視線を感じてしまい、自分が今手に持つ物を、果たして自分は捨てるべきなのか鞄に入れるべきなのか、頭が回らない。

    「……」

    じっとりと汗をかいてきた自覚があるが、とりあえず作業だけは進んでいるかのように、全て鞄に詰めていく。しかし、大量の書類やら嵩張る着替えなどは入り切らないことは明確だった。
    逃げているような印象を与えないように注意を払いながら立ち上がって棚に向かい、棚の一番下にあったゴミ袋を引っ張り出す。自然な動作を心掛けながら、ゴミ袋の上下を確かめ、袋の口の端を両手に持ち、ブン、振って空気を入れて大きく広げる。

    「……」

    ぎこちなくならないように、しかしカキツバタを見ないようにしながらまた彼のいるロッカーの前、鞄と荷物の横に座り込む。体全体に心臓の鼓動が響く。手が震えたりしないように祈りながら、着替え類をゴミ袋に入れていく。

    「……」

    しかし、慣れ親しんだ吐き気が込み上げてくるのを、手の震えが止められなくなったことを悟り、観念する。

    「どっか、行ってほしい」
    「お願いあるなら、まずはオイラの方を見るこった」

    心を落ち着かせるために、溜息のように聞こえることを願いながら、息を吐いて立ち上がる。見上げた彼には、予想通りいつもの笑みは無かった。

    「ごめん、カキツバタ」

    頭を下げるが、また無言が降りてくる。仕方なく顔を上げると、笑みは無いものの、少しだけ眉尻を下げたカキツバタが居た。

    「何が、ごめんなんだい? スグリよう」

    そう、かつて自分も、主語なく謝ってきた相手に、何が?とだけ返し、その場で許さなかったことがある。それは非常に鮮明な記憶だ。
    無意識のうちに視界はカキツバタを外し、足元の書類に自分の意識は向けられた。これらの物品は、本当に要るのだろうか? 置いていったら、きっと誰かが捨ててくれるはずではないか。

    「……」
    「おぅ~い?」

    ハッとして反射的に顔を上げると、カキツバタは屈んでこちらを覗き込んでいた。

    「あ……ごめん、……何?」
    「だから、何がごめんなんですかい? オイラに教えてチョーダイな」

    覗き込む瞳の鋭さはしかし先ほどに比べて少し和らいでいるような気がした。

    「……色々、迷惑かけたし、間違ったこと、悪いことさ、した」
    「ほおほお、……そうなのかい?」
    「……色々、……」

    言葉に詰まる。自分の何が悪かったのか、自分は何を間違えたのか、自分が失ったものは何か、得たものはあったのか、それを整理したいがための休学でもあった。俯いて涙をこらえる。一度大泣きしてから、体が泣くことを覚えてしまったようで、度々涙が滲むことがあった、でも、さすがに、カキツバタの前で泣きたくはなかった。

    「ごめん、本当に、どっか行って、ほしい……」
    「はーん、やなこった」

    元より、涙はそう簡単に、こらえようとしてこらえられるものでもない。足元に向かってぼとぼとと落ちる雫を眺めながら、せめて声だけは出さないように歯を食いしばる。

    「……大事な後輩を、放っておきたくないからな」

    肩に、ぽんと質量が乗る。そのままポンポンと叩かれる。涙だけでなく鼻水まで垂れそうになり、すするべきか迷い、それでも、泣いている事実はたとえ明らかだったとしても、少しだけでも隠蔽したくて、ティッシュで押さえた。

    「スグリが頑張ったのは、もちろんオイラも知ってるし、みぃんな知ってる」
    「……」
    「怠け者のオイラは、スグリの頑張り、ソンケーしてるのよ?」

    しゃくりあげそうになるのを堪え、噎せて咳き込み、そのまま嗚咽が止まらなくなった。

    「考える時間が必要なのは否定しねーよ? でも、辞めちゃーやーよ? そっちの文化は知らねーけどよ、こっちで休学は良くあることよ? 休学して、一杯考えて、より良く、より強くなって、帰ってくるもんだ。ガッコ通ってる間だけが学びってやつじゃないからねぃ」
    「……おれ、……」
    「ま、気高い王様、スグリ様が、負けっ放しのまま帰ってこないとは、オイラ想像できないけどねぃ? ヘッヘ……有り金全部賭けてもいーぜ? 帰ってきたらオイラの勝ちだ」
    「……それ、げほっ」

    もし帰ってこなくても、賭け金を貰いに登校したらその瞬間カキツバタの勝ちになるから成り立たないだろう、と指摘したかったが、上手く喋れなかった。カキツバタの手はまだ背中をさすり続けていた。

    「あるいはついでにオイラの留年記録にも挑んじゃうかい?」
    「……。……留年は、したく、ない……」
    「ヘッヘッヘ……。そいつはオイラの専売特許でしたかねぃ? ま、そう言うならせいぜい留年確定しないくらいで帰ってくるもんだ。赤点チャンプ、スグリ様も楽しみだがねぃ」

    パシ、と背中をはたかれ、カキツバタの気配が離れた。

    「一度話せて良かったぜ。オイラの責任で後輩が学校から居なくなっちゃいましたなんつったら、スグリよりも酷いからねぃ」

    背を向け、手をひらひらとさせながらカキツバタが去っていく。

    「俺も、……話せてよかった。本当にごめん」

    扉に手を掛けてカキツバタが振り向く。

    「復学してから、整理した頭で、それでも謝ることがあるなら、もう一度謝ってほしいもんだ。元チャンピオン様」

    そして何か言い返すよりも早く、カキツバタは出て行った。
    喰えない先輩だった。いつも、そうだった。
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