ただいま!我らが母校! 魔界が誇る最高学府。偏差値は75を超え、全国各地から難解な入試試験を乗り越えた優秀な学生が集い、最高レベルの教員が教え、日々魔法の研鑽に励む教育機関でありあらゆる学問の最新研究機関。
そのすばらしき頭脳たちが集う教員室では─── 通夜もかくやの重苦しい雰囲気が漂っていた。
最も上座の席につく男の前には、華々しく今年のマーリン賞の受賞者を発表する一面が開かれた新聞。
そう、マーリン賞である。
この魔界において、最も名誉ある賞だ。ありとあらゆる学問・分野それぞれにおいて、その年に最も栄えある成果を残した魔族を讃えるのだ。この最高学府の卒業生も、何人か受賞者に選ばれたことがある。とても喜ばしいことだ。マーリン賞受賞者に選ばれた卒業生は、必ず学院の紅焔に呼び、講演をしてもらう慣習がある。本来ならば。
ただ、今回はその受賞者が問題だった。
かつて学院に在籍し、研究室を陣取り、あらゆる事件を起こし、学長の胃に穴を開け、問題児として永久に名を刻むことになった2人。
グレイス・アーカート
ロイド・S・スティアフォード
その両名が、今回のマーリン魔法工学賞受賞者なのである。
「……どうします、学長」
「……辞表を書こう。私の胃に穴が開く前に委員会に届けてくれ」
「嫌です」「逃げる気か」「逃すな」
やいのやいの、職員会議は踊る。ついでに書類も宙を踊る。もうみんな現実逃避していたかったのだ。仕事なってクソ喰らえだ。あの2人と向き合うくらいなら職をなくして公園のブランコに1人寂しく揺られる方がマシである。
「……中止にしませんか」
「ストライキしましょう」
「俺たちは公務員だからできないぞ」
「煩え、今やらずにいつやるんだ」
「アーカートとスティアフォード立ち入り禁止の結界貼りましょう」
「どうせ破られる。クソッタレ」
「あ〜〜なんであんな奴らに頭脳を与えたんだ…神よ……」
「今なら教会で懺悔できる」
「俺も連れて行け」
「全員で行こうぜ」
はぁ〜〜………………
でっっかい溜め息と幸せが教員室から逃げていく。学長はシクシク痛む胃を抑えた。
「……2人には招待状を送る。仕方ない。伝統なんだ」
「いっそあの2人が断ってくれたらいいんですけどね」
「あいつらだぞ。間違いなく来るぞ。おもしろそう!って言ってな」
「最悪だ」
「講堂も開けるぞ。避難経路だけ確認しておけ」
「任せろ一目散に逃げる」
「学生はどうした」
「知らん。俺は俺の命が大事だ」
「じゃあ仕方ないな」
かくして、2人は母校に招待され、講義をすることとなったのである。