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    kotukotu_no_aaa

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    タイトルの通り。冒頭、事後から始まります。露骨な性描写はありませんがご注意ください。

    結婚するレイチュリ 人間は、快楽に浸ると口が滑りやすいものだ。アベンチュリンは特に心理学や脳科学について学んだことはないが、経験でそれを知っている。こんなことをふと思い出したのは、ピロートークの中の恋人が問うた一言が原因だった。
    「君は、自分の血筋を後世に残すことに興味は無いのか?」
     彼の聡明さを際立たせる琥珀のような瞳がこちらを見据えている。微睡みの中にいたアベンチュリンは、その質問の答えに窮した。
     自分たちの種族の境遇は、あまりいいものでは無かった。資源に乏しい星の、僅かな肥沃の地からは追い出され、相容れない部族と共に荒野と断崖の地でかろうじて住み分けていた。しかし結局戦争は避けられず、唯一の生き残りになったこの身には不自由がついてまわった。それを、我が子にも味わわせるのか。そんなものはきっと家族・・とは呼べない。
    「うーん。興味は、無いかな」
     過去を思い返していたからか、自分で思っていたよりも冷たい声が出た。失敗を焦るよりも先に、眉を顰めた恋人が口を開く。
    「……すまない」
     彼は頭が良くて、そして優しすぎるから。謝罪の意味を理解したアベンチュリンは、努めて普段通りを装ってみせる。
    「えぇ? いきなりどうしたの教授。君がそうも素直だと、明日は雪か霙が降るんじゃないかな。そういえばこの間、カンパニーが君に調査を頼んだ星のことなんだけど――」
     囀る鳥のように言葉を紡いでいれば、深いため息と共に布団を肩まで掛けられて「そろそろ寝るように」と窘められる。はぁいと返事を返して、思い出したように襲ってくる眠気に身を委ねた。医者でもある恋人が、この時何を考えているかも知らずに。

    ◇◇◇

     あの一夜から数日が経って、紙を一枚入れたファイルと小さな紙袋を下げて、ベリタス・レイシオは恋人の部屋を訪っていた。インターホンを慣らせば、部屋着に着替えて纏う雰囲気もわずかに柔らかくなったアベンチュリンが顔を出す。
    「君からのアポイントメントなんて珍しい。その手の中にはよっぽど重要な書類でも抱えているのかな? まぁとりあえず入ってよ」
     部屋に通され、テーブルに着くようにと声を掛けられる。レイシオは椅子に腰を下ろさずに、紙袋の中から取り出した小さな箱と書類を机に並べた。書類の左上には、なんの書類か明白にわかる三文字が印字されている。
    「それで、レイシオ。今日はなんの話だい?」
    「――結婚しよう」
     小さな箱にはシルバーの指輪が入っている。普段から装飾品を多く身につける彼のために、少し細身だがデザインは洗練されたものを用意した。用意された指輪と婚姻届に、恋人はポカンとアホ面を晒して硬直していた。少しの沈黙のあと、彼が口を開く。
    「教授、変なものでも食べた? それとも新薬の臨床実験でもしていたのかい?」
     よりによって求婚を心神喪失だと疑われていることに深くため息をつきたくなったが、レイシオはぐっと堪える。
    「結婚が目的を達するために手っ取り早いと思ったのは事実だが、それはあくまで手段だ。僕は、君と家族・・になりたい」
     家族と聞いて、彼はピクリと肩を震わせた。レイシオから見てアベンチュリンという恋人は、人の命の重さをよく知っていて、他人の悲しみに敏感だ。夢の惑星での一件からもよくわかるが、自分の運の良さを利用して他人への不利益は少なく立ち回ろうとする。それに必要なのは、彼ひとりの犠牲だ。そうして身についた自己犠牲の思考は簡単には治せない。
     数日前のレイシオの質問への返答も、押し殺したようなだった。もしも彼に子供が産まれたとして。ほとんど絶滅したエヴィキンの血を引く子供など、まともな人生を歩むのが難しいと理解してしまっている彼の諦念がそこに透けて見えた。その選択にレイシオの意思を押し付けることは出来ないが、レイシオが彼の「家族」になることは出来る。伴侶という形で。
    「けど、この宇宙に同性婚が制度として認められてる惑星はない。博識な教授ならよく知ってるだろう?」
     彼の言うことは確かに事実だった。同性愛に対する理解は深まりつつあるとはいえ、同性の婚姻を認める惑星は、少なくともカンパニーと交流を持つ星の中にはひとつも無い。アベンチュリンの神秘的で稀有な虹彩の瞳が、レイシオの真意を探るように絶えず視線を注いでいた。好意にまず疑念を持って、を探ろうとするのは、彼の生きるすべだったのかもしれないとふと思う。その疑念を払うには、愚直なまでに真っ直ぐな言葉が覿面であることも、Dr.レイシオはよく知っていた。
    「あぁ。これを書いても、僕たちが家族だと社会的に認められることはないだろう。けれど僕は君を伴侶として扱うと誓うし、僕の君に対する気持ちを可視化できる。ひとつ付け加えると、僕は憐憫なんかでこんなことは言わないので考慮するように」
     それで、君はどうしたいんだ、と。あくまで彼の選択ひとつだと突きつければ、あーだかうーだかよくわからない呻き声をあげたアベンチュリンは、白い肌を赤く染めて答えた。
    「ふつつかものですが、よろしくお願いします」

     その後、レイシオは伴侶を伴ってカンパニー本社を訪れた。彼の恩人だと常々聞かされていたダイヤモンドと同僚のトパーズを証人として、婚姻届を完成させた。
     どこにも提出できないそれを、大切そうにファイルに仕舞ったアベンチュリンは花がほころぶように破顔する。その柔らかな表情を知るのは、この宇宙でたった一人の彼の家族だけだった。
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