とけない魔法にかけられて(仮題)プロローグ「オペラ座の怪人」 オーケストラの奏でる音楽が抑えられたものに変わるのにあわせて、舞台全体を隈なく照らしていた照明が落とされて中心の一点を強く照らしだすスポットライトに切り替わった。
豪華な電飾で飾られた階段に大羽根を背負って立つ美しい男が光の輪の中に浮かびあがると、満席の客席のみならず舞台上にずらりと並んだ演者たちからの視線が注がれた。劇場中が彼だけを見つめていた。
芝居の幕がおりるまでパリ・オペラ座の地下に住むかなしい男を演じ、白く冷ややかな仮面をつけていた男の顔の上半分は、ビジューがちりばめられた豪奢な仮面で覆われている。仮面のせいで顔の半分ほどははっきり見えないのにそれがかえって男の整った顔立ちを一層美しく見せていた。
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