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    gorogoro_ohuton

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    オタクのたわごと

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    モブ目線※捏造
    【狂聡】紳士服売り場の多部田くん

    【狂聡】紳士服売り場の多部田くんお客様のお出迎えために駐車場で待機して早10分。僕はソワソワと遅々として進まない腕時計を眺めていた。僕と一緒にお客様をお出迎えするのは、外商部チーフの茂田さんだ。茂田さんはここ阪京百貨店勤続20年のベテランで、物腰柔らかなな50間際の男性だ。すらっとした痩せ型の体でスーツをビシッと着こなし、営業トークもとても上手い。外商部で1番の売り上げを誇っている稼ぎ頭だ。
    不景気ということもあり、全国の百貨店に共通していえることだが、外商部はどちらかといえば縮小傾向にある。一昔前はお客様のご自宅にカタログや商品をお持ちした時代もあったときいているが、それは僕が生まれるよりも昔の話だ。もちろん、長年のお客様の中にはご自宅にお伺いし、商談を進めることもあるらしいが、そのようなお客様もほんの一握りだ。近年は、カタログをお送りしてからご自宅にお電話をし、こちらにお越しいただくことが多い。僕が働くスーツ売り場でも、茂田さんや外商部の方たちがお連れしたお客様を対応することがある。そのほとんどが僕のような新卒2年目のペーペーではなく、ベテランの先輩たちが対応していた。
    そんなペーペーの僕がどうして茂田さんとお客様をお迎えしているのかというと、茂田さんの担当顧客の成田様という方が、本日は僕と同じような20代のお若いお客様と一緒にお越しになるからだ。茂田さんからは、成田様はと今はなくなってしまったあのミナミ銀座の方ということ、昔から懇意にしていただいていること、そして、お連れ様がまだ学生ということくらいしかきいていない。本来は、僕のような新人は外商のお客様を接客させていただく機会はほとんどない。しかし、茂田さんが成田様の口ぶりから若い店員をつけた方がいいだろうと判断されたらしい。
    店長を通して話をきいたとき、嬉しさよりも粗相をしたらどうしようという気持ちの方が強かった。ただ、店長も成田様がお若い頃から接客しているようだが、ちょっとくらい失礼をしてもその場を和ませてくれるような器の広く、とてもユーモアに溢れている方のようだ。とはいえ、あのミナミ銀座の方なのだから命がいくつあっても足りないのではないかという気持ちがある。そのような方のお連れ様は、もしかして、成田様の上司にあたる方のご子息なのではないだろうか。茂田さんも初めてお会いするかたなので詳しくはわからないという。
    駐車場の入り口の方からヘッドライトの光が少しずつ近づいてくる。茂田さんは挙動不審に腕時計を見つめていた僕の肘を小突き、目配せする。遠目からでもわかる程ピカピカに磨かれた黒塗りの車だ。僕はあまり車に詳しくないが、高貴なお方が乗っていそうなヤツだ。
    静かに車止めに止まると、茂田さんはすかさず運転席にまわる。車から出てきたのは、見上げる程に背の高い男性だ。茂田さんはご無沙汰しておりますと成田様と思しき男性に頭を下げる。成田様は背の高い茂田さんより目線が上にあり、その手足はモデルのように長い。腰のベルトの位置が高い場所にあり、股下は90cmくらいありそうだ。
    ぼうっと成田様に見惚れていると、助手席のドアが控えめに開く。僕はハッとしてドアを開くと、眼鏡をかけた青年がおずおずと降りてくる。茂田さんが言っていた通り、僕より年下のような気がする。ようこそお越しくださいましたと頭をさげると、男性はどうもと緊張した面持ちで会釈してくれた。
    「成田様、本当にご無沙汰しております。おかわりなくお過ごしでしょうか?」
    「いやぁ、最近くみちょ…社長が人づかい荒くて困っとるところですわぁ。せや、茂田さん出世したんやって?いやぁ、めでたいわぁ」
    「いえいえ、成田様程ではございませんよ。ささ、立ち話もなんですからどうぞ店内へ。お車のキーはお預かりいたします」
    茂田さんはにこやかに成田様に世間話をふりながらキーを預かり、駐車場の係員にいつものところへと指示をだす。和やかに話すふたりは旧知の仲のようだ。ミナミ銀座の方ときいていてどんな恐ろしい人がお越しになるのかと身構えていたので少しほっとした。僕は緊張した面持ちのお連れ様を促し、ふたりの背中を追った。
    「成田様、本日はお連れ様のスーツをご覧になられると伺っておりますが、まずはスーツからご覧になりますか?」
    「せやな。聡実くんに似合うスーツを5、6着見たいなって思ってるんやけど」
    「はぁ!?5、6着もいらんやろ」
    「んー?ええスーツなんてなんぼあってもええやろ?これからスーツきてお仕事するんやし」
    「一応、働きはしますけど、僕、まだ学生ですよ?そんなええスーツ持ってたら不相応やろ」
    「そんなことないって。せやろ、茂田さん?」
    「左様でございますね。成田様も、丁度20歳くらいの頃に初めてご来店されて、スーツをお作りになっておりましたし。私は初めて担当させていただいたお客様が成田様で本当によかったと思っております。こうして末長くご贔屓にしていただいておりますし、今後とも、何卒」
    茂田さんは相変わらず営業トークが上手い。成田様も相変わらずお上手やなぁとケラケラと笑っている。お連れ様はでもと不服そうだが、茂田さんは緊張されますよねと優しく微笑み、お連れ様の耳元でそっと囁いた。
    「成田様はあんなことをおっしゃっていますけど、初めていらしたとき、スーツなんてなんでもええ、何着ても同じやとおっしゃっていましたよ」
    「あちゃぁ、茂田さん、そんな昔のこと聡実くんに言わんといて」
    若気の至りやわぁとケラケラと笑う成田様はお連れ様ーー聡実様の腰に手をまわしてきかんかったことにしといてと眉を下げる。聡実様は少しビックリしたようで、そうなん?と茂田さんを上目遣いで見上げる。
    「そうですよ。成田様にもそのような少し尖っていた時期がおありになりましたから、ご安心ください」
    そう言いながら茂田さんは外商専用のエレベーターにご案内する。聡実様はまだ少し緊張されているようだが、成田様の昔話に目を輝かせていたのを僕は見逃さない。成田様と聡実様の関係はわからないし、お客様のご関係を邪推するのは失礼になるが、なんというかこう、おふたりの間には懇ろな雰囲気が漂っているような気がする。
    紳士服フロアに到着し、店舗にご案内をする。店長は店内に待機していて、いらっしゃいませと恭しく頭を下げる。
    「成田様、お待ちしておりました。ご無沙汰しております」
    「こちらこそ。今日はオレやなくて、聡実くんのスーツを見繕ってほしくて」
    「ええ、伺っておりますよ。聡実様にもきっとご満足いただけるかと思います。本日はこちらの多部田が担当させていただきますが、何かございましたらご遠慮なくお申し付けください」
    「も、申し遅れました。多部田と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
    名乗っていないことに今更ハッとして慌ててジャケットの内ポケットから名刺を取り出し、まずは聡実様にお渡しする。店長の視線がグサグサと突き刺さる。聡実様は名刺を両手で受け取りながら、岡聡実ですとペコペコと頭を下げる。この店舗でそんな初々しい反応をされることがないので、少しだけほっこりしてしまう。成田様にも名刺をお渡しすると、よろピクねぇとウインクをしてきた。よろ、ピク…?
    「で、では、こちらへどうぞ。色々と生地を揃えておりますので、イメージがあればおっしゃってくださいね」
    僕は気を取り直して岡様と成田様を奥のソファーへとご案内する。店長は茂田さんに目配せをしてフロアに戻っていき、茂田さんは少し離れたところで僕をの接客を眺めるようだ。緊張する。
    引き出しから春夏用、秋冬用の生地のサンプルをとりだし、岡様の前に広げる。サンプルだけでもかなりの数があり、岡様は当然のように僕なんもわからんよと困った顔をして成田様を見上げた。
    「岡様は学生とおっしゃっていましたが、春からどちらかでお勤めに?」
    「あ、いえ、僕、大学院に進学してまだ学生やりますけど、一応、アルバイトみたいな感じで法律事務所に就職するんです」
    「将来の弁護士先生の卵やから、ええやつ見繕ってな」
    「狂児さん!余計なこと言わんといて!」
    岡様は成田様の前ではつい素が出てしまうのは、成田様にくわっと牙をむく。成田様は確か40代、岡様は恐らく22歳といったところだろうが、おふたりの仲はいいらしい。少し歳の離れた友人のような関係に見える。
    「左様でしたか。では、お勤め先でももしかするとスーツを着る機会も多いかもしれませんね」
    きっと、大学の入学式や卒業式で着るような吊るしのスーツしか持っていないのだろう。成田様は5、6着とおっしゃっていたので、春夏を2着、秋冬を2着、冠婚葬祭用を1着というイメージだろうか。
    「まず、おすすめなのはダークネイビーと、少し暗めのチャコールグレーにシェードストライプもお似合いになると思います」
    僕はサンプルの中からいくつか生地をピックアップし、岡様の前に並べる。触っていただいても大丈夫ですよと促すと、岡様は恐る恐る生地を手に取った。
    「…僕、あんまりよぉわからへんよ?」
    「どれか気になるお色はありますか?」
    「そう言われてもなぁ…自分にどれが似合うかなんてわからへんよ?」
    「オレはこれがええと思うよ」
    横から成田様がひょいと1枚生地をとり、岡様の肩にあてる。流石成田様はお目が高い。成田様が手にとった生地は、サンプルの中でも1番値段の高いラインのものだ。同じような色でも、生地の厚みやメーカーによって全く着用時のイメージが異なってくる。成田様は岡様のことをよく理解していらっしゃるのか、この中だとこれとこれやなと不要なサンプルはテーブルの端によせた。僕が接客する意味があるのだろうか。
    「成田様がお選びになった生地はどちらも岡様の肌の色にマッチすると思いますよ。あとは、そうですね、ウィンドペーンは少しカジュアルに見えますが、堅苦しい印象を和らげる親やすさがございます。また、こちらのグレンチェックはイギリスの伝統的な柄で、年齢を問わず根強い人気がありますね」
    「せやな。これと、これは聡実くんによぉ似合うと思うよ。せや、ダークグリーンある?」
    「ございます。ダークグリーンでしたら…こちらはいかがでしょうか」
    成田様がお選びになるのは、どの色や柄も1番値段の高いラインのものだ。普段、サンプルには値段のシールが貼ってあるのだが、予め全てのサンプルからそのシールを剥がしていた。もちろん、スーツだけではなく、コート、ネクタイやハンカチといった小物も全て値札をぬかりなく外してある。成田様は値段を気にして買い物をする方ではないが、お連れ様が気にされる可能性があるからだ。
    成田様だけではなく、ミナミ銀座の方は茂田さんの太いお客様だ。そのようなお客様は値段を気にして買い物をされることはほとんどない。時折お連れ様がいらっしゃっても、値段を気にして買い物をしている方はいらっしゃらない。しかし、岡様は成田様と良好な関係を築かれていらっしゃるようにお見受けするが、与えられることに慣れていらっしゃらないようだ。
    「……僕に似合うんやろうか?」
    「似合う似合う。オレが選んでるんやから。なぁ、多部田くん?」
    微笑ましい様子に見入っていると、咎められるように声をかけられ、急激に意識を引き戻される。僕はもちろんですよと大きく頷いた。
    「スーツを着ると、身が引き締まりますよ。実は、私が着ているこのスーツも、こちらに入社が決まったときに思い切ってオーダーメイドで作ったんです。自分で生地を選んで、採寸してもらって。初めは自分には不相応なのではないかと思っていましたが、出来上がったスーツに袖を通した瞬間、このスーツに似合うような社会人になろうという気持ちが強くなりましたよ。私も、いつか成田様のようにカッコよく着こなしたいものですね」
    「多部田くん、若いのに上手いこというなぁ」
    「いえいえ、まだまだ若輩者ですよ。ですから、岡様も自信をもってください」
    岡様は僕と成田様との間で視線を彷徨わせると、小さく頷く。僕は少しだけほっとして立ち上がった。
    「では、布を体にあてさせていただいて、どちらにするか決めましょう。それから採寸に移らせていただきます」
    バックヤードから成田様が選んだ生地をピックアップし、鏡の前で岡様の体に布をあてる。結局、成田様はどれも気に入ってしまったようで、中々どれにするか決まらず、全部で作ればいいという成田様と、そんなのもったいないという岡様で揉めに揉め、どの布にするかでさらにそこから1時間かかった。僕たちは苦笑をもらしながら、痴話喧嘩を微笑ましく見守ることしかできなかった。
    生地決めが終わる頃には岡様はグッタリしていて、採寸に移る前にお茶をお出しして休憩を挟むことにした。その間に成田様は茂田さんに連れられて別室に移った。恐らく、スーツに似合うネクタイや小物を見繕ったり、別のお買い物があるのだろう。茂田さんからは、採寸はゆっくりやるようにと指示が出されているので、僕は岡様の体力回復がされるまでスーツ以外にも傘やドライビンググローブなどもオーダーメイドで注文できることをお伝えした。プレゼントにも喜ばれますよとさらっとお伝えすると、岡様は興味を持たれたのか、カタログをじっくりご覧になっていた。
    のんびりとお話をし、採寸が終わって注文書が仕上がる頃、成田様と茂田さんが戻ってこられた。岡様はあからさまに緊張をとかれていて、僕も少しだけ肩の荷が降りた。
    「今の時期ですと、大体2ヶ月半くらいでお渡しができるかと思います。来店されてお渡しにされますか?もちろん、郵送もできますが」
    「じゃあ、できたらオレに連絡してもらえる?」
    「かしこまりました。それでは、こちらでお手続きは終了となります。お時間をいただきましてありがとうございました」
    「こちらこそ。ええ買いもんさせてもらいました。あ、聡実くん、下のパーラーでパフェ食べてこ。少しお腹へったやろ?せやから、見送りはええよ」
    「承知いたしました。では、お出口まで」
    成田様と岡様を店舗のお出口までお見送りすると、成田様はほななと気さくに手を振って帰られた。茂田さんは抜かりなくパーラーに連絡をいれていた。後に茂田さんからきいたところ、成田様は岡様のためにネクタイとハンカチだけでなく、カフスボタン、それからコートを買われたらしい。一体、今日だけでどれだけの売り上げがあったのだろうか。
    それから3ヶ月後、成田様と岡様はスーツを引き取りに来店された。どちらのスーツも岡様によくお似合いで、成田様はデレデレと岡様を褒めちぎっていた。
    カップルや親子でスーツを選びにいらっしゃるお客様は少なくない。ああでもない、こうでもないと楽しそうにスーツをお選びになる姿を見ているだけで幸せな気持ちになる。
    「あ、そうや多部田くん、今度はオレのスーツ見繕ってな」
    「っ…!こ、光栄です!」
    僕はまだ茂田さんや店長のようなお客様に寄り添った接客はできないけれど、成田様や岡様のように、お客様を笑顔にできるような接客ができるようになりたいと、心に誓った。
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    【狂聡】紳士服売り場の多部田くんお客様のお出迎えために駐車場で待機して早10分。僕はソワソワと遅々として進まない腕時計を眺めていた。僕と一緒にお客様をお出迎えするのは、外商部チーフの茂田さんだ。茂田さんはここ阪京百貨店勤続20年のベテランで、物腰柔らかなな50間際の男性だ。すらっとした痩せ型の体でスーツをビシッと着こなし、営業トークもとても上手い。外商部で1番の売り上げを誇っている稼ぎ頭だ。
    不景気ということもあり、全国の百貨店に共通していえることだが、外商部はどちらかといえば縮小傾向にある。一昔前はお客様のご自宅にカタログや商品をお持ちした時代もあったときいているが、それは僕が生まれるよりも昔の話だ。もちろん、長年のお客様の中にはご自宅にお伺いし、商談を進めることもあるらしいが、そのようなお客様もほんの一握りだ。近年は、カタログをお送りしてからご自宅にお電話をし、こちらにお越しいただくことが多い。僕が働くスーツ売り場でも、茂田さんや外商部の方たちがお連れしたお客様を対応することがある。そのほとんどが僕のような新卒2年目のペーペーではなく、ベテランの先輩たちが対応していた。
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