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    gorogoro_ohuton

    @gorogoro_ohuton

    オタクのたわごと

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    gorogoro_ohuton

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    モブ視点。予備校のチューターの茂部さんの話(捏造)
    【狂聡】予備校のチューターの茂部さん

    【狂聡】予備校のチューターの茂部さん9時のチャイムと同時にバイトの大学生が校舎のドアを開けにいく。階段を登る足音をききながら、受付を通り過ぎる高校生たちにおはようございまーすと光を失った虚無顔であいさつをする。中番残業からの早番は眠すぎる。生あくびを殺しながら私は留守電を解除した。
    時は春休み。予備校は新学期に向けて生徒たちを獲得するために血眼になってやれ無料体験授業だ、やれ春季講習を受けると入塾代が無料だの、中3スタートダッシュ高校講座だの、たくさんのイベントを行っている。
    オープンと同時に自習室にこもるのは受験をひかえた新高校3年生のみんなだ。単語帳や参考書に目を落としながら階段を登っていく姿はいつ見てもシュールだ。歩きスマホならぬ歩き勉強。自習室の中では原則としてスマホの使用を控えるように呼びかけているが、彼ら彼女たちは音楽プレイヤー代わりにスマホを使っている。かくいう私は学生時代はMDプレイヤーとかmp3だったし、未だにオニーのウォークマンを使っている化石なのに。
    自習室に向かっていく生徒たちを見送り、私は席について社内イントラを開く。今日は4月からの入塾相談が3件、生徒面談が2件、春季講習の後追いの電話かけを5件、春季講習の初回授業の生徒への声掛けが3人というハードスケジュールだ。とりあえず、最初のアポイントは10時なので、それまでは昨日やり残した雑務を片付ける。
    担当生徒や新規顧客と話した内容は記録し、いつ何時誰がどのような対応をしたかがわかるようになっている。昨日はついうっかり定時間際にクレームの電話をとってしまい、それの対応に追われて担当生徒との面談記録をつけられず、結局終電間際になるまで帰れなかった。クレームの内容は、薦められた講習を受講したら簡単すぎたから返金しろとのことで、んなの知るかアホ!!!!と言いたくなるのを堪えて平身低頭謝ることしかできなかった。しかも、校舎長が担当している重点高校のマーキング生徒で、かつ、校舎長が会議でたまたま不在にしていて、かつ、そういうときに限って上司は面談で手が離せないし、そういう時に限って担当生徒の親から電話がかかってきたり、アポなしで生徒が相談にやってくる。
    そんなこんなで家に帰り着いたのは深夜、睡眠時間も4時間しかとれず、早番の8時半出勤。もぐもぐと栄養補助食品を齧り、ファストフード店の100円コーヒーで流し込んでいると電話が鳴る。骨の髄まで染みついたこの電話の音は、家にいても耳の奥で鳴り響いている。そろそろ病院にかかった方がいいかもしれない。
    そうこうしているうちに、おはようございまーすと言って10時からの授業の教師がやってきたり、午前番の同僚が出勤してくる。誰も彼も目が死んでいて、こんな状況がGWくらいまで続くのだから悪夢でしかない。
    「…あの、すみません」
    恐る恐るカウンターに近づいてきた男子生徒の姿に私は立ち上がる。おはようございますとにこやかに声をかけると、彼はおずおずと頭を下げた。
    「岡さんですね」
    「そうです。すみません、よろしくお願いします」
    彼が着ているブレザーは、この最寄駅にある立石高校の制服だ。立石高校は偏差値的に言えば可もなく不可もなくといった感じで、数年に一度京大の合格者を排出するようなレベルの学校だ。学校の近くにあるので大勢の立石生が通っているし、私の担当している生徒にも立石生は大勢いる。彼、岡聡実さんは春季講習から入塾を検討している新規生徒さんだ。もうほとんど入塾の意思は固まっているようだが、ここからが私たちの大きな仕事。どれだけ授業を受講させるかの説得だ。
    予備校はサービス業。売り上げが伸びなければ給料も出ないしボーナスも下がる。クレームで理不尽に怒鳴られ(知らんがな)、保護者には成績があがらないのはなぜなんですかと詰められ(勉強してないからだろ)、休みの日になれば固定電話なんてないのに家で電話が鳴っている音が聞こえている始末なのに、私は営業が苦手だ。だって、やる気のない生徒にどれだけ受講させても、金をドブにすてるようなもの。本人がやりたいといわなければ受講しても無駄と思ってしまうタイプだからだ。だから、上司には、もう少し担当生徒の受講率をあげろとか、新規入塾者の数を増やせとか散々言われていた。人には向き不向きがあって、私は進路指導をするのは得意だけど、営業は大嫌いだ。
    岡さんを面談スペースに案内しながら、春季講習はどう?と声をかける。
    「まぁ、ボチボチです」
    ボチボチってなんやねん、ボチボチって。
    「岡さんは鈴木先生のリーディングと天野先生の現代文を受講してますけど、難易度には問題なさそうですか?」
    「あ、はい。多分」
    多分ってなんやねん、多分って。難しいとか簡単とか、色々感想あるやろ。
    「…そうですか。では、まずは岡さんが2月に受けた模試の結果を見て色々とお話しましょうか」
    私はクリアファイルから岡さんの模試の結果を出し、なんとも言えない点数に頭を抱える。弊社は一応関西圏ではそれなりの大手予備校で、全国模試の類いをそれなりに行っている。立石の生徒さんは弊社の模試を学校全体で受けてくれていて、岡さんの成績は、これまた可もなく不可もなく、今講習で受講しているリーディングと現代文のレベルは丁度いいレベルか少し難しいくらいだろう。志望校欄の合格率はC〜Eが並んでいる。どうやら法学部志望らしい。大阪を中心とした関西圏だけでなく、東京の大学もマークしていた。
    「岡さんは私大の法学部志望ですか?」
    「ええ、まぁ…お父さんとお兄ちゃんが公務員やから」
    「そうなんですね。岡さんも公務員になりたいから法学部志望されているっていうことですか?」
    「うーん…別に、将来なりたいものないから僕も公務員でええかなぁて」
    ええかなぁってなんやねん、ええかなぁって。自分の将来をちゃんと考えているんだか考えていないんだかわからない岡さんに私の笑顔はどんどん引き攣っていく。関関同立はE判定、産近皇龍と東京の私大はCやD判定。国立を目指したいといわない限り、まぁ、ちゃんと勉強すれば3科目ならどうにかなるだろうか。
    「ちなみに、東京の大学にも興味があるんですか?センター出願でマークしてますけど」
    「…どっちかといえば、東京の大学行きたくて。でも、東京の大学あんまり知らんくて。とりあえず、お兄ちゃんの母校書いただけです」
    私は椅子から転げ落ちるのもどうにか堪える。まぁ、高校2年生なんてそんなものだろう。受験生としての自覚が芽生えるのは、危機感が募る夏休みくらいからだから。それにしても、メガネをかけて、ワイシャツの一番上のボタンまでとめ、ネクタイも緩めず結んでいるような真面目を絵に描いたような少年からはほとんど自分の意思が感じられない。まぁ、両親揃って入塾相談にきて、親がいうままに受講する子供よりはよっぽどマシだが、彼の本心はどこにあるのだろう。多分、東京に行きたい、そこだけのような気がする。
    「どうして東京の大学行きたいか、聞いてもいいですか?こっちでもいい大学たくさんありますよ」
    「……忘れられない人がいて」
    「忘れられない人…?」
    岡さんは私から視線を逸らし、じっと机の上を見つめる。なんだか、あまり踏み込んで聞いてはいけないような気がする。元カノだろうか。
    「ま、まぁ、岡さんが東京の大学も視野にいれているということはわかりました。では、志望校はこれから固めるとして、どの授業を受講するか決めていきましょう」
    私は気を取り直し、岡さんの点数を見ながら不得意としている項目をチェックする。英語は文法はできているがリーディングは弱そうで、現代文は小説が苦手、世界史はまだ模試で出題されている分野まで学校の授業が追いついていないような感じがする。とりあえず、リーディングの授業、現代文の授業、世界史の授業の3つを薦めて岡さんとの面談は終わった。
    結局、岡さんはリーディングの授業しか申し込まなかった。人生そんなもんだ。
    月日は流れ、あっという間に一年が終わろうとしている。冬は高3生の合格調査をしながら、春季講習の受講の相談を受けなくてはならない。夢破れた高3生とは連絡がつかないことが多くあり、私はまた上司から合格調査をしっかりやれと叱られていた。とりあえず自宅に電話をかけまくり、電話に出た母親に心配をしているので連絡をください、電話が難しければご自宅にお送りしている進路ハガキでご連絡をくださいと事づけを頼む。笑う生徒もいれば、気持ちを切り替えて浪人の道を選んで予備校を決めている生徒もいる。
    担当生徒の進路を確認しながら、そういえば、岡さんから連絡をもらっていないことに気づく。岡さんは本当に手のかからない生徒だったが、最後の最後まで掴みどころのない生徒だった。保護者からの面談の希望はなく、こんにちはと声をかければペコリと会釈をしてくれて、何か相談をしたいときには声をかけてくる。志望校も一緒に考えたが、関西の大学を2つ程抑えにして、東京の大学は交通費などもかかるからと、センター試験出願をメインにした。彼の学力的にセンターで受かるのは正直中々厳しいものもあるのではなかろうかと思ったが、そこまで口を出すことではない。通年の授業料、各種講習料だってそれなりにかかっているし、受験の費用なんて出願料だけであっという間に10万は飛んでいく。そこからさらに滑り止めの入学金を支払ったりすると、高3の受験だけで馬鹿にならない金額がかかる。
    岡さんのご自宅に電話をかけると、お母さんが出た。岡さんはどうやらお父さんと買い物にでかけているようで、お母さんに進路のことを尋ねると、どうにか1つだけ東京の大学に合格し、そこに進学するのだという。第一志望ではないが、無事に進路が決まって安心した。
    「茂部先生、聡実がお世話になりました」
    「え、あ、いや、私は教科を教えているわけではないから先生ではないですよ。生徒さんの相談にのったりするチューターです」
    「そんなんどうでもええんですよ。茂部さんの指導のおかげで合格したようなもんですから」
    「いやいや、聡実さんが頑張ったからですよ」
    「聡実もね、元々ちょぉ無愛想な子やし、年頃でしょ?私や主人にも進路のことよぉ話さんで…でも、茂部先生と色々話させてもらって随分気ぃ楽になったみたいで。本当にありがとうございました」
    「…そうでしたか、こちらこそ、そう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます」
    休みの日に電話が耳の奥で鳴り響いていようが、受講率が悪いと責められようが、私がずっとこの業界で働いているのには理由がある。そう、100人のうち1人でもいい。こうして感謝の言葉をかけられること、それがやり甲斐に繋がっている。お母さんがいうように、岡さんは少し無愛想な生徒だった。いや、無愛想とは違うかもしれない。もしかすると、3月の入塾前に言っていた忘れられない人のことをずっと考えていたのかもしれない。岡さんの心の中にいる忘れられない人はきっととても素敵な人なんだろうなと私は静かに受話器を置いた。


    私はそれから数ヶ月後、品川駅に立っていた。大学入学を機に上京した高校の同級生の結婚式に参加するためだ。品川駅の改札前で友達と待ち合わせをしていると、黒スーツの男が誰かと電話をしながら私の隣に立つ。ふんわりと香る雄という感じの香水の匂いを漂わせた男はしかし、一目見てその筋の人間だとわかる。この男性も関西人らしい。馴染みのある関西弁でいつもんところにおるでーとキョロキョロと辺りを見回している。
    「狂児、ここや」
    その声がした方に顔を向けると、数ヶ月前まで担当していた岡聡実さんが立っていた。私はさっと顔を逸らしながら横目で様子を伺う。
    「聡実くん!狂児のこと迎えにきてくれたの?ありがとぉ」
    「大学の帰りなだけなんでついでです」
    「それでもありがとぉ。疲れもふっとんだわぁ。聡実くん、お腹すいてるやろ?飯行こ」
    男は岡さんの腰にさりげなく手をまわし、岡さんが持っていたトートバックを方にかける。岡さんもさも当然のように黒服の男にエスコートされながら、今日は中華が食べたいですなんて答える声が遠ざかっていく。私と話していた声よりもずっと柔らかく、気を許しているような声音だ。
    「もしかして、君の忘れられない人って…」
    「あ、茂部!久しぶり!」
    二人の背中を呆然と見送っていると、友人に肩を叩かれる。幸せそうな彼らの姿を見てなんだか泣きそうになってしまった。新郎側にいい人が、いないだろうか。
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    gorogoro_ohuton

    MOURNINGモブ目線※捏造
    【狂聡】紳士服売り場の多部田くん
    【狂聡】紳士服売り場の多部田くんお客様のお出迎えために駐車場で待機して早10分。僕はソワソワと遅々として進まない腕時計を眺めていた。僕と一緒にお客様をお出迎えするのは、外商部チーフの茂田さんだ。茂田さんはここ阪京百貨店勤続20年のベテランで、物腰柔らかなな50間際の男性だ。すらっとした痩せ型の体でスーツをビシッと着こなし、営業トークもとても上手い。外商部で1番の売り上げを誇っている稼ぎ頭だ。
    不景気ということもあり、全国の百貨店に共通していえることだが、外商部はどちらかといえば縮小傾向にある。一昔前はお客様のご自宅にカタログや商品をお持ちした時代もあったときいているが、それは僕が生まれるよりも昔の話だ。もちろん、長年のお客様の中にはご自宅にお伺いし、商談を進めることもあるらしいが、そのようなお客様もほんの一握りだ。近年は、カタログをお送りしてからご自宅にお電話をし、こちらにお越しいただくことが多い。僕が働くスーツ売り場でも、茂田さんや外商部の方たちがお連れしたお客様を対応することがある。そのほとんどが僕のような新卒2年目のペーペーではなく、ベテランの先輩たちが対応していた。
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