酒に強い類が珍しく酔って帰ってきた。
今日は古くからお世話になっている監督から飲みに誘われたので行ってくると家を出ていったのが日が落ちる少し前で、日付を超えてもなかなか帰って来ないから心配していたところに鳴り響いたインターホンの音。急いで玄関の扉を開ければには地べたにペタンと座り込んでいる類がそこにいた。
「類どうした?鍵忘れたのか?」
「…つかさくん?」
赤づいた頬、回らない呂律、ふらついてる頭。
あぁこれはかなり酔っ払っているのだと瞬時に察する。
「つかさくんだぁ」
ゆっくりと立ち上がったかと思えば勢いよく抱きついてくる類に思わずバランスを崩しそうになるが持ち前の体幹でなんとか持ちこたえた。
しかし、類がここまで酔っ払うことなんて見たことがなかった。以前ワンダーランズショウタイムの面々と飲みに行った時もかなりの量を飲んでいたがなんともない顔で「僕、結構ザルなんだよね」と語っていたので(その時はオレの方が酔っ払って類に介抱されて帰ったが)今回相当の量を飲んだのだろう。オレよりたっぱのある類をなんとか支えながら寝室まで運んでベットに下ろす。
「類、とりあえず水飲め。」
冷蔵庫からペットボトルの水を持ってきて差し出すがなかなか受け取ろうとしない。
「…つかさくんが飲ませてよ」
「は?」
「僕つかさくんが飲ませてくれないとやだ。」
ただをこねる子供みたいに言う類が可愛らしく思えてしまって何でも言うことを聞いてあげたくなってしまう。
「分かった。ストローを持ってくるから、」
「ちがうよ。口移しがいい」
部屋を出ようと踵を返したオレの袖をぐいっと引っ張ってとんでもないことを口にする類を見てぎょっとする。数十秒間逡巡したのち、酔った類に何言っても聞かないだろうし仕方ないという結論に至った。こんな甘えたな類なんて滅多に見られないだろうという物珍しさと多少の期待がオレの中にあったことは否定できない。
ペットボトルの水を口に含んでゆっくりと類に近づいて口付ける。少し空いた類の口に少しずつ水を流し込しこめば、ごくりと音を立てながら喉を通っていく。それを最後まで見守ったあと顔を離そうとするが、本当に酔っているのか分からないほどの力でガッチリとホールドする類にそれを阻まれる。そのまま類の舌が入り混んできてオレのと絡み合う。類からは微かなお酒の香りと味がした。そのせいかはたまた気分に飲まれただけなのか、頭がくらくらしてその甘さとあつさに理性が揺らぐ。
「ねぇ、しよ?」
離した口元から混ざりあった互いの唾液がつうと糸を引くのさえ耽美に思えてしまう。月の瞳をゆらゆらと揺らしながら、それでもしっかりとオレを捉えて、類が告げた。
「だがそんなに酔っていて勃つのか?」
オレの理性はもうほとんど残っていなかったのでそのまま流されてもよかったのだがぐずぐずにされてからやっぱりできませんなんて言われたらたまったもんじゃない。
「心配いらないよ。ほら。」
グッと押し付けられた類のそれは確かに少し兆していて、嬉しさと少しの後ろめたさから顔を背けてしまう。
「ね、」
ふにゃりと蕩けた笑みを浮かべて顔を覗かせる類にオレの心はいとも容易く奪われてしまった。
***
すぅすぅと寝息を立てて穏やかに眠る類を横目に司は類のことを考えていた。
以前から類の様子に少し、ほんの少しだけ違和感を覚えることがあった。なにか思い詰めたような、少し苦しいそうな顔を時折見せるのだ。何か悩んでいるのかとさりげなく聞いてみても大丈夫だよと笑って返されるので、その度に類の考えてることを分かってあげられたらどれほど楽になれるだろうかとため息をこぼした。
今日だって滅多に見せないオレに甘える様子を見せてくれたかと思えば、行為中何度もつかさくん、つかさくんと何かに縋るように名前を呼んではすきだよ、とうわ言のように呟いていた。その目には涙が滲んでいたものだから、頭を撫でながらオレも好きだぞと返した。
類を苦しめているものは何なのだろうか。どうして何も相談してくれないのか。オレたちは恋人だろう?そんなどろどろとした感情ばかりが頭の中をぐるぐると渦巻いて、苦しさに眉をしかめる。
「なぁ類、オレはそんなに頼りないか?」
か細く呟いた声は誰にも届くことなく消えていった。