其れは朝月夜と共に来る呼び声あれ?と思ったのはなんの気もない時だった。
夢から覚めてパチンと目を開けた瞬間。
起き上がって身支度を整えようとした時。
いつも通りの格好を鏡で見ている間。
何も変わらない自分。何も異変のない自分。なのに拭えない何か。
違っていないのに違っている。何かが引っかかる感覚。
しかしてそこに不安はない。違和感はあるけれど。
うーん?と首を捻ってみるもわからず思案に耽っていると、寝室の戸がすらりと開いた。
思考が尾を引きつつもそちらに目線を移すと、日頃から世話を焼いてくれるお歯黒べったりの山茶花が三つ指をつきながら深々と頭を下げてそこにいた。
「おはようございます奥様。今朝は随分と遅起きでいらっしゃますね」
「おはよう山茶花。起きてはいたんだけどね…なんかちょっと考え事してた」
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