【青藍と鈍色と紅と】
光の届かない此の部屋の蛇口は何時も少しだけ捻っておく。
シンクを一定のリズムで叩く小さな水滴の音は時にどれだけ鋭く研いだ刃よりも手酷い拷問足り得るのだ。特に躰の末端から血が流れている人間にとっては。
「……気分はどうだい?」
コンクリートを打ち付けただけの無機質な仕事部屋には数時間ぶりに顔を出した。部屋の入口に置かれたキャスター付きのサイドテーブルにはランプや本の代わりに滑らかな曲線を描いた刃物が整頓されている。神経を研ぎ澄まされた被験体はタイヤが床を転がる音の一つにさえ大声を上げて若い拷問吏を怖がった。四肢を寝台に括り付けられ身動ぎを封じられたターゲットは視界さえも丁寧にラッピングされている。顔中から吹き出る体液全てで濡れそぼったかんばせにガーゼを添えながら少年は感度の高い息をついた。対して男の息は半死半生、荒く拙い。強弱の激しい聲は「死にたくない」ばかりで話にならなかった。
1915