小さいマヨと母性に目覚めそうになる巽の話──星奏館、ブックルーム。日付が変わるまであと数分。本に囲まれた静かな空間に人影があった。
(区切りの良いところまで、と読み進めていたらこんな時間になってしまいましたな。そろそろ部屋に……)
壁掛け時計に視線を向けて時刻を確認した巽はようやく本を閉じて立ち上がった。
「タッツン先輩!!」
同時にブックルームに慌しく藍良が駆け込んで来た。
「おや、藍良さんも夜の読書ですかな?」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃなくて、大変なんだよお!!」
「巽先輩ここにいたのか」
「一彩さん、と……その子は」
藍良に続いて現れた一彩は腕に子どもを抱えていた。深い紫色の髪に、不安げな表情をみせる下がり眉に緑の瞳。極めつけは小さな少し空いた口から覗くギザギザの歯。
2356