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    たこのいか

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    若林くんから合鍵を貰ったシュナイダーくんの話

    ##シュナ源

    ちいさな証 ハンブルクからの引越し後、第一号の来客として若林からの招待を受け胸の高鳴りと共にチャイムを押したのがついさっきの事であるようにシュナイダーは思えた。互いに購入してきた夕食をテーブルに並べ、軽く酒も口にしながら話に花を咲かせていればあっという間に皿の上から食べ物は消えてしまい、時計の針も日付けを跨ぐまで一時間前を指す所まできているのだ。
     明日の予定がなければと残念に思いながらも、予定があってよかったと安堵する矛盾を抱きながらシュナイダーは帰宅を告げ、グラスに残った僅かな酒を飲み干してソファに深く座り込み再び時計を見つめた。そんなシュナイダーとは反対に若林はソファから背を離し、ズボンのポケットに手を忍ばせながら少々意地悪な笑みをシュナイダーに向けた。
    「シンデレラ、少し目を閉じてくれないか?」
     どうやら切なげに時計を見つめるシュナイダーの姿が若林にはガラスの靴を履いた少女に映ったらしい。己を茶化す若林にシュナイダーは少々むくれながらも付き合ってやると言わんばかりに目を閉じ、悪巧みを待ち受ける姿勢をとった。すると若林が動いたのだろう、ギシッとソファが鳴る音に元から並んで座っているのだがより一層、若林の存在を近くに感じずにはいられない。瞼の向こう側で若林は先程見せた悪戯っぽい表情のままでいるのだろうか、そう思っていると不意に左手の掌に金属らしき冷たい物が落ちてくるのを感じ、唇に集中していた意識が掌に向かった。
    「もういいぞ」
     瞼を開き、意識に遅れて目を掌に向けるとそこには小さいながらも圧倒的な存在感を放つ鍵があり、シュナイダーは釘付けにされてしまった。若林の浮かべる笑みが慈しみを込めたものへと変化している事に気付けない程に。
    「いつでも来いよ。いや、……待ってる」
    「……しつこいと後悔しても知らねぇぞ」
     若林からしてみればシュナイダーの執着とも言えるしつこさは既に思い知っており、今更であろう。それでも、シュナイダーはそう返すしかできない。焦がれ求めた存在から求められているという現状に、熱をもった鼓動が、シュナイダーを襲う限り。今のシュナイダーに出来る事といえば、若林からの想いの塊とも言うべき鍵を握りしめるぐらいだ。指の隙間から落ちて離れていかないように、愛おしく。
    「なんだよ、お前らしくもない。後悔させてやるってくらい言えないのか?」
     責めているようでいて期待を込めた柔らかい口調はシュナイダーの鼓動を速めるには十分であり、一瞬でアルコールによりほんのりと朱く染まっていた頬が触れてしまったら火傷してしまいそうな程に燃え上がった。
    「らしくないのはそっちもだろう?若林、お前が受け身で構えているなんて」
     恋人とのひと時に勝ち負けなど存在しないとは頭では理解しつつも、こうもやられっぱなしであるのをシュナイダーは面白くないと感じ、売り言葉に買い言葉かのように言葉を返す。だがそれはシュナイダーの一人相撲でしかないのだと、重ねられた唇が帯びる熱に思い知らされてしまう。
    「……それでも、お前に来て欲しいんだ。オレをチームへ誘いに来た時のように」
     告白と共に背中に回された腕に引き寄せられ、若林の胸に埋まる形で抱きしめられシュナイダーも恐る恐るではあるが、鍵を握りしめたまま若林の背中に腕を回した。
     言葉もなく、ただ抱き合うだけで満たされる感覚は心地良いと素直に思える。だが、その心地良さを生む互いの熱は全身を駆け巡る激しい心音が自分と若林、どちらのものなのか分からなくなってしまうくらいに溶け合う温度に達していた。一つになっているかのような感覚は現実と夢の境界線さえも危うくしてしまい、これは自分にとって都合の良い夢ではないのかと現実を疑い始めそうになるも、シュナイダーは己の手の中で形を保つ鍵の感触を確かめながら若林を強く、強く抱きしめた。



     翌日、帰路についている若林が自宅のカーテンの隙間から微かに見えた灯りにまさかと思いながら鍵を回しリビングに上がると、まるでもう一人の借主だと言わんばかりにシュナイダーが居座っていた。
    「ガラスのくつを取りに来たよ」
     我らがチームのマスコットを付けた鍵を得意気に見せつけてくるシュナイダーに呆れながらも、酒の勢いでなんとも臭い台詞を口にした事に恥ずかしくなる若林であった。
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