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    たこのいか

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    たこのいか

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    家の前にいるシュナイダーくんを若林くんが見つける話

    ##シュナ源

    待ち人来たる シュナイダーという男が自分を待ち構える姿を目にするのは今日が初めてではない。故に若林は驚きよりも、『何故シュナイダーが部屋の前に居るのか』という疑問で頭を埋め尽くされた。
     背を壁に寄りかけ、両手をコートのポケットに突っ込ませるシュナイダーの目はまだ若林の存在を捉えていないようだ。恐らく、その瞳には外廊下から見える街の灯りが映っているのだろう。
     そんなシュナイダーの横顔を眺めながら若林はオフに入る前に交わした会話を思い出してみるも、シュナイダーがここに居る理由となるようなやり取りが思い浮かばず首を傾げた。
     手ぶらな様子を見るにまさか、シュナイダー以外の家族四人全員が不在の上で鍵を失くしてここに来た。なんて理由だったりするのだろうかと思うも、それは一番あり得ない事だと己の都合に良い妄想を鼻で笑うしかない。何故なら、シュナイダーは若林の家の鍵を持っていないのだから。
     とりあえずこのままシュナイダーを雪夜に晒し風邪でも引かせる訳にはいかず、若林はゆっくりと歩を進めた。
    「よおシュナイダー。どうかしたか?」
     気さくな若林の掛け声はシュナイダーの赤く染まった耳にきちんと届いたようだ。姿勢はそのままに頭だけを若林に向け、不服そうな表情を浮かべた。
    「送っただろ」
    「何を?」
     問いかけの意味を理解できずにいると、シュナイダーは壁から背を離し左手をコートのポケットから出した。その手に握られた携帯を目にし若林は思わず、「あー……」と声を出しながら気まずそうにポリポリと頭をかいた。しっかりと思い出したのだ、朝慌てて家を出た際に携帯を家に忘れてきた事を。
    「寒かったろ?早く入れよ」
     手早くドアの鍵を回して開き、壁のスイッチを押して照明を点ける。
     だがシュナイダーが続いて入ってくる気配がせず振り返った瞬間、バタンとドアが閉まる音と共に、突入とばかりに踏み込んできたシュナイダーに背を壁に押し付けられてしまった。
     両手を腰に回される形で抱きしめられ、改めて至近距離で向き合う形となって若林はある事に気がついた。若林を待つ間に付いた雪が解けたのだろう、一度でも瞬きをすれば涙のように流れ落ちてゆくと容易に想像できる程、シュナイダーのまつ毛に水滴が溜まっている事に。
     ゴクリ、と唾を飲み込む音が若林の中で嫌に響く。寒さで赤く染まった頬も、切なげに細めた目も、自分にしか知り得ないシュナイダーの表情を連想するには十分過ぎたのだ。
    「若林、お前を待つのには慣れてると思ってたのにな。……笑えよ、次にお前に会える日も待てなくてこのザマだ」
     ポツリと自嘲気味に笑うシュナイダーはまるで、悪い事を告白する子供のように思えた。そんなシュナイダーに若林はお望み通り口角を上げて笑い、宙ぶらりんな己の両手をシュナイダーの背で交差させ、ぐっと距離を詰めた。
    「あぁ、笑えるぜ。同じ事をお前も思ってたなんてよ」
     シュナイダーを子供のようだと比喩したが、シュナイダーには今の自分はどう映っているのだろうか。そう思いながら瞬きをしたシュナイダーの頬を水が伝うのを合図に二人の唇がそっと重なり、離れた。
    「分けてくれ若林っ、お前の熱を」
    「っ!シュナっ……!」
     いつの間にか服の下に侵入していたシュナイダーの手に脇腹を撫でられ、冷たい感触に若林はゾクリと肩を震わせた。するとシュナイダーは好機とばかりに再び唇を重ね、秘密を暴くように唇の隙間から舌を口内へ進め、若林の舌を捕らえた。
    「んっ、ふっ……ぁ」
     友として、好敵手として、仲間として、シュナイダーと様々な関係を今日まで築き上げてきた。
    「わかっばやし……っ!」
     だからこそ、どうしようもなく甘えん坊な恋人としてのシュナイダーを知るのは自分だけなのだという仄暗い優越感に恥じらいも、理性も、ダウンジャケットと共に脱ぎ捨てて構わないと思えてしまう。
     それでも若林はシュナイダーの両肩を掴み、身体を引き剥がした。
     予期していなかったお預けに分かりやすく眉を寄せ、唇を尖らせるシュナイダーに若林はあやすように額にキスを贈り、唇に伝わる冷たさに己の行動は間違っていないのだと確信を得る。
    「風呂入って、飯食って、話してりゃまた少しは冷えるだろ?続きは……それからだ」
     控え目でいて、大胆な誘いはシュナイダーをたちまち上機嫌にさせ、「言ってくれる」と小さく笑いながらシュナイダーは大人しく若林の身体から手を離した。
    「それじゃあ、たらふく食おうぜ?……朝食は取れないだろうからな」
     なんとも挑発的な台詞を吐き、意気揚々と浴室へ赴くシュナイダーの背中を見送ると若林もタオルなどを取りに寝室へ向かった。
    「ったく、恥ずかしいヤローめ」
     クローゼットから乱暴にタオルと予備の寝間着を取り出し、ベッドに放り投げる。ついでとばかりに朝起きた時のままであるシーツを整えた。整えた意味など、すぐに無くなるとは分かっている。だが、何か行動を起こしていないとくすぐったい感覚に胸を滅茶苦茶にされてしまいそうで若林はとにかく動きを止めないように努めた。
    「あっ鍵」
     ふと、玄関の鍵を閉めていなかったのを思い出しパタパタと玄関へ向いシャワーの音に耳を傾けながら鍵を回し、鍵穴から抜いた鍵を若林はじっと見つめた。
    「……そろそろ渡すか」
     目を閉じ、寒さに震えるシュナイダーの姿を思い浮かべて若林は以前から抱いていたふんわりとした願望が形を成すを確信した。ここがシュナイダーにとってもう一つの帰る場所になればいい、と。
     ならばあとは機会を作るのみだが、その前に分け与えるものがある。カラカラと浴室の扉が開く音に合鍵についての計画は胸に仕舞い、若林は鍵をあるべき場所へ戻した。
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