Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    internetnanmin

    ☆quiet follow
    POIPOI 5

    internetnanmin

    ☆quiet follow

    #強制二択inWEB_ワンドロワンライ
    お題「決まってるじゃないですか」

    あますぎるパリジン
    今あますぎるパリジンがブームです!

    #パリジン
    #強制二択inWEB_ワンドロワンライ

    無題副会長室の鍵はとうに壊れていた。
    というより壊れていることを知っているはずのパリストンが直そうとしないのを、オレは知っている。
    「鍵がかかっててもかかってなくてもジンさんには関係ないですからね。自分の部屋だと思って好きに使って良いですよ」
初めて副会長室でヤッた日、最中に鍵が壊れていることを急に示唆してきたパリストン。気が動転してかいつもよりあいつを感じてしまったことに恥ずかしさを覚えている。そしてこのクソ腹立つピロートークへと続いた。

    ……ったく、思い出すだけで腹が立つ。
なんであんな奴の言葉なんか、いちいち記憶に残ってるんだ。
    今日はヤツが視察で留守にしている日。どこに行くって言ってたかな、興味ないから忘れたが。
本来ならオレがこの副会長室に来る理由なんて、どこにもない。
ないはずなのに。
    ドアを押し開け、勝手知ったるように足を踏み入れる。
    薄暗い室内。
無人の空間。
壁際にある観葉植物だけが、空調を浴びて静かに揺れていた。
    「……あいつがいないだけですげー静か」
    悪態をついて、あいつご愛用の黒くてでかい革張りの椅子に腰を落とす。
硬く見えんのに実際は柔らかいんだよな。ブーツを脱いで完全に預けたオレの身体はこの椅子に妙に馴染んでいた。
    ヤツが座っているときに、そこに触れることはなない。でも、いない時はつい、この椅子に来てしまう。
    バカみてーだなって、自分でも思う。
オレはあいつのことなんて
    「……好きじゃねーし」
    しんとした空間に反響する。
    誰もいない。
誰にも聞かれてない。
だからってわざわざ口に出すってことは……
そういうことなのかもしれないと、少し思って、急いで考えるのをやめた。
    背もたれに身体を預け、目を閉じる。
    あいつの匂いが微かに残っていた。
柔らかくて少し甘い香水。
にやけた顔が頭にちらついて、オレは眉をひそめる。
    「クソ……」
    苛立ちとも照れともつかない声を落として、目を伏せた。
    なんでよりによってあんな奴なんだ。
世界中に、もっとマシな奴、いくらでもいただろうが。
オレが「好き」って感情を認める相手が、
よりによってッ
    (……世界で一番ウザくて、めんどくせぇ、アイツ)
    だけどそれでも、パリストン=ヒルという男はオレが何を言っても、何度「好きじゃねぇ」と突っぱねても、「はいはい」って笑って、変わらずにそこにいる。
    そういうところが、ズルいんだよ。

眠気がじんわりと押し寄せてくる。
    この椅子に座ると、変に落ち着くのは気のせいだろうか。
いや違うな。あいつの気配が微かに残ってるからだ。
    きっとオレはパリストンがいないとどこかで落ち着かなくなってる。
    認めたくねぇ……。
    でもそれじゃここにいる理由がない。
    あいつがいないこの部屋で、せめて居ないということを確認して、
それで少しだけ安心する自分がいる。
    まぶたの裏に金色の髪が浮かんだ。
    「ふん……」
    それでも嫌いになれない。
きっともうとっくに手遅れなんだろう。
    そんな言葉を飲み込んで、オレはそのままあいつの椅子で眠りに落ちた。

    ……パリストンが戻ってきたことは気配でわかった。
足音を立てずに部屋に入るクセはアイツの十八番だ。
副会長室の扉が小さく軋む音がして、空気の流れが変わったとき、オレは目を閉じたまま寝たふりを決め込んだ。
    「おかえり」なんか言えるかよ。
そもそも、勝手に人の椅子で寝てる時点で、もう完全に図々しいのに。
    パリストンは何も言わずデスク前の革張りのソファに腰を下ろした。
パソコンのキーを叩く音、ペンの滑る音。
書類を捲る音。
たまに電話で誰かと話している、やけに丁寧で甘ったるい声。
    オレのことなんか気にも留めていない。
    そう思うと、
……いや、思っただけで、胸がムカムカした。
    ……あれ?なんでだ。
    構ってほしいわけじゃねぇ。
話しかけてほしいとか、触れてほしいとか……そんな、そんなはず
    ……あるわけねぇだろ。
    でもどこかで期待してた。目が覚めたふりをすれば、すぐに気づいてくれて。
「ジンさん、お目覚めですか?」って、あの気障な笑顔で言ってくるんだと。
    それなのにあいつはオレが横で転がってるのをまるで空気のように扱って、黙々と仕事をしてやがる。
    忙しいのは知ってる。
真面目なところがあるのも知ってる。
なのに、なんだって、こんなに……。
    (……チクショウ)
    背中に小さく力が入った。
うつ伏せになったまま、指先だけをきゅっと丸めて、オレは呼吸を整える。
    どうでもいい。
オレはただ寝てるだけだ。
パリストンのことなんて見てねぇし意識もしてねぇ。
    ……なのに。
どうして、こんなにも空気の揺らぎが気になるんだろうな。
    キーボードの音が止んだ。
一瞬、椅子が軋む。
立ち上がったのかと、咄嗟に目を開けかけて……
    やめた。
    水を取りに行っただけか。
    あいつの行動がわかるようになってる自分が腹立たしい。
    目を閉じたままふんと息をつく。
    オレは何をしてるんだ。
なんでわざわざこの部屋で寝て、
なんでヤツの仕事する横顔を感じながらこんな気持ちになってんだ。
    「……バカじゃん」
    小さく呟いて、それでも声が届かないことを確認して、目をこれでもかとギュッと閉じた。
    どうせ起こしてくれないなら、いっそ本当に寝てやる。
そんな意地を抱えたまま、
いつの間にかまた微睡みに落ちていた。
    それでも本当は。
少しでいいから、髪にでも触れてくれたら嬉しかったんだ。
んなこと、死んでも言えないけど。



    ボクが部屋に戻ったとき、ジンさんはすでにボクの椅子の上で眠っていた。
    いや正確には、「眠ったふり」だっただろう。
    ピクリとも動かずにいるけれど、呼吸のリズムがまだ浅い。
肩の力が抜けきっていない。
指先も、うっすらと丸まっている。
    ……かわいい人だ。
    「話しかけてほしいならそう言えばいいのに」
    そう心の中で呟きながらボクは溜まっている書類の山に向かった。
パソコンの電源を入れメールに目を通し始める。
    音を立てないようにそっと書類をめくりながら、少し離れた椅子で作業していると、時折、彼の動きを感じる。
彼の目を開けかけたのをボクは気づかないふりをした。
ほんの少し声を発して、吐息のように消す様子も、全部、全部、知っていた。
    構ってほしい、けど素直にはなれない。
    それにきっと彼はボクのことを構ってちゃんとだと思ってる。自分のことは棚に上げるけど。
    
そんな子供みたいな意地が、愛しくてたまらなかった。


    ****


    深夜になって作業が一段落してふと目をやると、ジンさんはようやく本当に眠っていた。
    眉間の皺も少しだけゆるんで、
腕をだらしなく下ろしているのを見ると、
ようやく肩の力が抜けたらしいことがわかる。
    「……やっとですね」
    小さく囁き、立ち上がってジンさんのそばへ向かう。
    帽子のようなターバンに無理矢理収められ、それでも収まりきらなかった、鼻にかかりそうな髪を指先でわける。
噂レベルでしか聞いてませんが、ここ最近大きな仕事をやり遂げたと聞いてましたから、構ってほしい気持ちもきっと大きかったんでしょう。
けどその人は絶対に言葉にしない。
    “好き”なんて言えない。
“寂しい”なんて絶対に認めない。
それでも、ボクにはわかるんですよ。
    そういうジンさんだからこそ愛おしいに……
    「……決まってるじゃないですか」
    吐息のように、言葉を唇の間で零して、
ボクは帽子越しにそっと口づけた。
    ほんの一瞬、まつげが揺れたけれど、起きる気配はなかった。
少しツバをずらし、彼の額から鼻筋をなぞるように唇を滑らせた。
    次に頬に、そして静かに唇へ。
    音もなく触れるだけのキス。
眠っている今だけ素直に愛を注げる自分もどうかしてる。
    わざと気付かないふりをして彼の様子を見て可愛いと思うなんて。
    きっと明日も、「勝手に寝ただけだ」とか、「来たらたまたま椅子が空いてた」とか、
どうしようもない言い訳を口にするんでしょう。
    ……それでも、来てくれる。
ボクのいる場所に。
    それだけで充分です。
    だから今夜はもう少しだけ。
    そっと指を絡めて、掌に彼の温度を感じながら眠りの中にいるジンさんに、もう一度だけキスを落とした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏👏👏💘💘💘💘💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works