少年との思い出あの子を初めて見たのは彼が6歳の時だった。
まだ幼いのもあり、最初の印象はそれほど強くない。
私が檀家である事を父に教えられると、しっかりとした挨拶をしてきたのは覚えている。
兄弟揃って父親に似ているな、と無難な感想を抱いた。
私は片倉住職と仲が良く、生まれた長男とも良好な関係を築いていた。
次男は健康であったが、あまり目立つ子供ではなかった。
しかし、幼なくともどこか纏う雰囲気が父や長男とは違った。
顔は似ている。間違いなく血は繋がっているだろう。
母親、祖父母、誰に似たのか。
そんな他愛もない事が気になっていたのだろうか。
私の目は、寺に行くたび自然とあの子を探していた。
兄に手を繋がれ、近所の祭りに出かける直前の姿。
家族の側でちょこんと静かに座る姿。
私は彼に接触をしてみようと、東京土産のお菓子を手渡しする事にした。
長男にも以前はあげていたが、もう菓子で喜ぶ年齢ではなくなっていたのもあり、久しぶりの土産だった。
「ありがとうございます」
彼が本当に喜んでくれているのか、最初はわからなかった。
だが、何度か顔を見る内にようやくわかった。
よく見ると口元をかすかに綻ばせ、微笑んでいるのだと。
私はこの時、彼を抱きしめたくなる衝動に駆られた。
それからというもの、暇があれば彼に話しかけ、時折りあの子が好きな甘みの少ない菓子・高価過ぎない土産を贈り物を手に寺へ向かうのが何よりの楽しみとなった。
そんな日々が続いたある日
住職と世間話をしている時だった。
「憲伸を特に可愛がってくれているとか」
この言葉をきっかけに、さすがに跡取りでもない次男に対して構いすぎるのも考えものかと自重する事に決め、寺を訪れるのは控えるようになった。
おそらく住職の発言に悪意は無い。
これは私が勝手に決心しただけなのだ。
しばらくして、用事が出来たので寺を訪れる事にした。
手短に要件を済ませて住職と話を終え、帰ろうとした。
寺の掃除をしていた長男に話しかけられたので、久しぶりなのもあって少しだけ話をした。
どうやら彼は今、近所の子供たちと出かけているらしい。
「ーーさんが来なくなってから、弟はたまに窓の外を見るようになりました」
「なんだか、あなたを探しているような気がするんですよ」
「一度、あなたの身に何か起きたのか聞かれたもので、弟はーーさんを心配していたのではないのでしょうか」
この言葉で私の決心はあっけなく砕け散った。