恋に恋する大海賊 生前、ついぞ恋だの愛だのに縁がなかった。
いやこの言い方では、私に好意を向け、告白してくれた者達にあまりに不義理だ、訂正しよう。
「生前、私は誰かに恋をした事がなくてね。このみてくれだ、秋波は多数に送られたが……どうにもそれ止まりで。私が一歩踏み出せなかったといえばそれまでなのだが……」
そこで言葉を区切り、目の前の青年を見やる。
一回り年下の白い髪と空色の目の青年は、動かしていた手を止め、戸惑ったようにバーソロミューを見た。
「別に避けていたわけでも忌避していたわけでもなく、それなりに興味はあったのだよ。身を焦がすような恋や、誰かを自分以上に慈しむ深い愛に」
だからね、とフフッと微笑みを青年に向ける。
「このカルデアでしてみたいと思って。なにせ幾多の英傑と肩を並べて生活するなんて、もう二度とないだろうし。泡沫の奇跡のような時間だろう?」
「……それは」
青年は手にしてた物を机に置くと、真剣な表情でバーソロミューを見た。
「恋をするという事かい?」
「うん」
バーソロミューが頷くと、青年が「私では」と続けて何かを言おうとする。
だがバーソロミューの
「擬似的な私の片想いがいいなと」
という言葉が重なってしまった。
「あ、何か言おうとしてたね。すまない」
「……いえ、お気になさらず。それで、擬似的とは?」
「あぁ、ほら。恋だの愛だの、素敵で憧れはするものの、マスターのサーヴァントとしての本分を忘れてしまう可能性がある要素は持ちたくないからね。だから恋したつもりで誰かに想いを寄せて、なおかつ一方通行がいいなって」
一人遊びで一人で完結する、しかも期間限定なものがいい。
「ごっこ遊びのようなものさ。それで相手を見繕おうと、」
「私が立候補しても?」
言葉を遮られ、述べられた言葉にバーソロミューは目を瞬かせる。
「君が?」
「はい」
「私の片想い相手に?」
「はい」
「物語の円卓第二席パーシヴァル・ド・ゲールでも申し分ない上に、君は実物も好青年だからね。願ってもないが……あれだよ? 付き纏って黄色い声をあげるかもだよ?」
「是非お願いしたく」
「カルナとかに君への恋バナをするかも」
「望むところです」
「手作りのクッキーとか差し入れるかも」
「貴方の手作りならば、いくらでも」
「う〜ん」
バーソロミューは腕を組んでしばらく考え込んだが、やがて顔を上げた。
「じゃあ、お願いしようかなぁ。しばらく迷惑かけるだろうけど、よろしくパーシヴァル」
「はい!!」
パーシヴァルは食堂全体に響き渡るぐらい大きな声で返事をし、破顔する。
「ではバーソロミュー、まずはデートをしよう!」
「ん? デート? それは片想いになならなくないか?」
「いいえバーソロミュー。互いの事を知らなくては、恋も何もないだろう?」
「確かに!!」
因みにここは食堂。
バーソロミュー達と同じテーブルを囲み、煮魚を食べていたカルナは「度し難い」と呟く。
離れた場所に座って唐揚げを食べていたマスターは、「えっと、パーシヴァルってバーソロミューにほの字だよね?」と周囲に問う。
マスターと同じ卓のマシュは「私もそう存じ上げてます」と同意し、少し離れていた場所に座っていた円卓達が、「押して押して押しまくるつもりかと」とガウェイン、「伝わってなかったのは押しが足りなかったと思っている顔ですね」とランスロット、「ここぞとさらに踏み込む気ですね」とトリスタン、「押しすぎるようなら止めます」とベディヴィエールと答える。
また近くにいた海賊達も、「え? 鈍感系にも程があるだろ。誰得?」と黒髭、「あらまぁかわしてるわけではなく、本当に気づいてなかったのですのね」とアン、「あれで気付かないとかありえるんだ……」とメアリー、「よし、賭場でもひらくか」とドレイク。
そんなふうに様々な反応をされつつも、パーシヴァルが恋するバーソロミューがパーシヴァルに片想いをするという関係が誕生した。