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    モブおじさん

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    モブおじさん

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    前に少しだけつぶやいた檜佐木と綾瀬川と髪の話
    甘すぎるかも〜〜〜😭

    甘い黒髪「なんか、いい匂いするな」
    思ったことがそのまま口に出た。途端、今までそっぽを向いて髪を梳いていた美しい男はぱあっと表情を輝かせながら振り向いた。
    「わかる?!」と言いながら膝でよたよたと近寄ってくる男に吹き出してしまいそうになりながらも感じたことをそのまま伝えてみる。
    「いつもは控えめな花っぽい匂いがするが……なんつうか、ちょっと現世っぽい匂い、っつうか?」
    「流石、よくわかってるじゃない」
    にま〜っと口角を上げた綾瀬川が何かのボトルを取り出しながら上機嫌で続けた。
    「これ、この間現世に行った時に見つけたヘアオイルなんだけどね。髪もサラッサラになるしすっごく良い香りなんだよ。いろんな花の香りがブレンドされてて、ほんのちょっぴりムスクの香りもするの。僕的にはちょっと甘すぎるかなあと思ったんだけど試してみたらすごく使い心地が良くてね。現世でも売り切れ続出でなかなか手に入らないんだって。うねりとかパサつきが一切なくなって……」
    眼前にやたら高級そうなボトルを差し出されつらつらと色々な説明をされるが、特別美容関係に詳しいわけでもない自分には言っていることの半分も理解できなかった。変なスイッチを押してしまったかと若干後悔したが、目の前で楽しげに揺れる綾瀬川の髪は確かにいつもより輝きを増している気がする。さらりと重力に逆らうことなく流れる絹に目を奪われた。

     そんな俺の視線に気がついたのか、綾瀬川はぱっと俺の手を取って自身の頭へ持っていく。目を微かに丸くして驚いていると、
    「特別だよ。触らせてあげる」
    と、至極楽しそうに、内緒話をするみたいに囁いた。
    悪戯好きの猫のような表情にどきりとしながらも導かれるまま彼の髪の間にするりと指を通してみる。
    そのまま細く柔らかな髪を持ち上げると、なんの抵抗もなくスルスルと指の間を滑り落ち、あっという間に元の位置へ帰っていく。
    「……おぉ……、綺麗だな」
    まるで芸術品を見たかのような気分になり堪らず感嘆の声を漏らすと、綾瀬川はふふっ、だのうふふ、だの、ご機嫌に目を細めて擦り寄ってきた。相当嬉しかったらしい。
    ぐっと甘い香りが近づいて心臓が跳ねる。

    「気に入った?」
    「あぁ。すごいな。」
    偽りなく答えると、綾瀬川はがばりと身を起こし、大きな瞳の中にきらきらとたくさんの光を集めて笑う。
    「じゃあ、君も付けてみようよ」
    「……え」
    ——全くの予想外だった。俺が気づいた時からやたら上機嫌だと思っていたが、想像以上に嬉しかったらしい。
    有無を言わさずにいそいそと胡座をかいた俺の背後に回り込み、立膝になる綾瀬川。
    「これ使ったら君のワックスの濫用でゴワゴワになった犬みたいな毛もサラフワだよ」
    背後で綾瀬川が鼻歌を歌いながらボトルをかちゃかちゃといじる音がする。犬、って……そんなこと思われてたのか。

     じっとしていると、綾瀬川の手が俺の髪を撫でた。慣れない感覚にひくりと肩が震える。
    優しく丁寧に髪に触れられて妙に落ち着かない。そんな俺とは対照的に相も変わらず綾瀬川は楽しそうに鼻歌を歌っている。
    「……そんなに人の髪いじって楽しいか?」
    振り返らずに聞いてみた。綾瀬川はふふ、と笑って「うん」と答えた。
    「でも、こうしてちゃんと人の髪のお手入れをするのは初めて」
    「なんだそれ。やけに手慣れてるから他のやつにもやったことあるのかと思ったぜ」
    櫛を取り出して髪を梳かれる。
    「だってホラ。一角は髪の毛がないし、隊長なんかは絶対触らせてくれないでしょ。副隊長はこんなの使わなくても十分綺麗な髪だし……乱菊さんは自分のこだわりがあるから僕の好きなようにできないし」
    「あぁ……」
    確かにな、と納得していたら、できた。と満足気な綾瀬川が手鏡を差し出してきた。
    手鏡を覗くと、さっき見た綾瀬川の髪には劣るが確かに平素より艶と柔らかさが増した髪が自分の頭に鎮座している。甘い香りが自分から漂うのには慣れないが、その出来に素直に感心し顔を左右に動かしながら眺めていると手鏡をぱっと没収された。目の前にはまた綾瀬川の楽しそうな顔。視線が絡まり合う。

    「おそろいだね」
    そう囁いて、鼻っつらに口付けをひとつ落とされる。
    顔がさあっと熱くなった。
    「……また、人の髪いじりたくなったら、俺のとこ来いよ」
    抱き寄せて唇を重ねる。2人分の甘ったるい匂いが嗅覚を支配した。
    それがとても幸せで、このままこの香りが薄れてしまわなければ良いのにと密かに願った。


    ⬜︎


     翌日


    「修兵〜〜、原稿渡しに来てやったわよ〜〜ぉ」
    「乱菊さん!わざわざありがとうございます!」
    「……ん?んん?んんん!?」
    「……ど、どうしたんですか?俺なんか臭います!?」
    「修兵からいい匂いがする!!なんか、こう……お香とかじゃなくて現世の化粧品みたいな!!さてはアンタ現世でいい感じの女の子が……!?」
    「えッッ!?」
    「ん〜〜でも何かしら、この香りさっきもどこかで……」
    「き、気のせいじゃないですかね!?」
    「いーや!絶対何かある!隠さないで吐きなさい!」
    「か、カンベンして下さい!!!」



    「くしゅっ……。……なんだろ。誰かに噂されてる予感が……。まあいっか。次はヘアアレンジさせてもらっちゃお〜っと♪」
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