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    ue_no_yuka

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    ue_no_yuka

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    能あるタカは心隠す 中白んだ夕空に狼煙が上がり、祭り広場に設置されたお祭り本部から開催宣言がされた。まずは地元警察のパレード。そこに続いて里内の各町の山車がどんどん祭り広場に入ってきた。町ごとにテーマが違い、里出身の文豪の小説を題材にしたものや、奥原伝説の別の話を取り上げたもの、表と裏でテーマの違うものもあり、県のテレビ局が祭り広場の一角を陣取ってその豪華絢爛な様子を生中継していた。寛久曰くこのパレードで山車職人達は出来映えを密かに競っているらしく、山車パレードには出ない寛久は美鶴の横で延々と山車の解説していた。鷹山も美鶴の横で腕を組んでそれを眺めていた。
    山車のパレードが終わると神輿のパレードが始まり、寛久と入れ替わりで夕依が美鶴達の元に戻ってきた。鷹山が夕依を肩車して、寛久の神輿が横切るのを見たあと、美鶴達は屋台の並ぶ通りへ向かった。どの屋台もそれなりに列が出来ており、美鶴と夕依、鷹山で二手に分かれて、美鶴達はたこ焼きとポテトの列に、そして鷹山は夕依が絶対食べると言って聞かないクレープの列に並ぶことになった。逆だろと思いつつ渋々鷹山は夕依の希望を聞いた。
    「美鶴。」
    鷹山は美鶴に千円札を差し出した。
    「夕依の分だ。」
    「そんな、いいですよ。」
    「夕依のわがままに付き合わせて悪い。俺が出す。」
    二人が揉めていると、夕依が二人の服の裾を引っ張って言った。
    「二人とも、いいから。夕依自分のお小遣い持ってきてるから。」
    小さな財布を両手で持ってこちらを見上げている夕依に、美鶴は中腰になって言った。
    「いいんですよ夕依ちゃん。僕がなんでも買ってあげますから、好きなものを食べて下さい。」
    「いいの。二丁目食堂のお姉ちゃんが、男に奢ってもらえるって思い始めたら女は終わりだって。」
    随分おませさんですねと苦笑しながら美鶴は言った。
    「それは、無理に奢らせようとするのはおかしいってことでしょう?僕は夕依ちゃんに好きなもの沢山食べて欲しいんです。」
    そう言われて夕依はもじもじしながら少し悩んだあと、目線だけ美鶴を見上げながら小さな声で言った。
    「…じゃあ、たこ焼きだけ買ってくれる?ポテトは夕依自分で買うから。」
    「承知しました。」
    そう言って美鶴が微笑むと、夕依は照れくさそうに俯いた。
    「ようちゃんはビール飲みますか?たこ焼きとポテト並ぶついでに買ってきますよ。」
    「ああ、踊る前だから一杯だけな。」
    「よっちゃんね、昔ベロベロになりながら踊ったんだよ。」
    「おい」
    「酒豪のようちゃんがベロベロに…!?一体どれだけ飲んだんですか!?」
    「…若気の至りだ。」
    「まだ若いじゃないですか。」

    三人はその後屋台通りを一通り見て回った。はしゃぐ夕依と美鶴に、鷹山は子供を二人世話しているような気分だった。夜叉剣舞の準備のために鷹山は途中で分かれて祭り広場へ戻って行った。神輿のパレードを終えた寛久と合流しながら、美鶴達もゆっくりと祭り広場へ向かった。祭り広場に行くと祭り開始時よりも人でごった返していた。
    「さっきより人が多いですね。」
    「仕事終わってこの時間から来る人がやっぱり多いし、夜叉剣舞は県内だけでねぐ、地方からわざわざ見に来る人も多いがらな。」
    夕依は今度は寛久に肩車され、鷹山より低いと駄々をこねながら通りを覗き込んだ。すると祭り広場の端から太鼓の音が聞こえてきた。次第に笛の音、三味線が加わり、音が大きくなってきた。
    「あ!来たよ!」
    夕依は寛久から身を乗り出して広場の端を指さした。美鶴も背伸びしながら夕依の指さす方を見た。すると白装束の男達が篝火の奥からぞろぞろと現れ、通りに並び始めた。広場中から拍手が巻き起こった。鷹山も通りに出てきたので、美鶴達は鷹山の踊る場所の近くに移動した。鷹山は紺色の派手でない鬼面を着けていたが、身長の高さ故にそれなりに目立っていた。男達が皆位置につき、片膝をついて左手を鞘に右手を柄に添えると、音楽がぴたりとやみ広場に沈黙が走った。静けさを切り裂くように笛の音が鳴り、男達が一斉に立ち上がった。太鼓が加わり、三味線が裏打ちを始めた。たてがみのような白い毛が動きに合わせて揺らめいた。太鼓が大きくなると男達は刀を抜き、切りかかったり鍔擦り合いをしたりしながら闘うように舞い始めた。曲調が変わりさらに激しくなると、男達は脇にさしていた金色の扇子を取り出し、左手で持って素早く開いた。広場中からワッと歓声が上がった。扇子と刀が篝火を反射しながらチカチカと金と銀に光った。軽快でありながら力強く、激しくも流れるように美しい舞だった。美鶴は瞬きも忘れて鷹山の舞う姿に見入った。普段は忙しなく動かず、どちらかと言えば熊のようにのっそりとしている鷹山が、素早い動きで激しく舞う姿は、美鶴にとってとても新鮮だった。曲が最も高まったところで舞が終わると広場に拍手喝采が湧き起こった。男達は通りの左右の観客にお辞儀をした。面を着けていたものの、美鶴は何となく鷹山がこちらを見ているような気がして、つられてお辞儀した。

    最後の山車と神輿のパレードのために寛久と夕依が美鶴と分かれ、入れ替わりで鷹山が戻ってきた。いつもの手ぬぐいで汗を拭きながらやってきた鷹山に美鶴はプラカップに入った生ビールを差し出した。
    「お疲れ様です!ビールで良かったですか?」
    鷹山の瞳が微かに輝いたのを美鶴は見逃さなかった。
    「でかした。」
    鷹山は美鶴からビールを受け取るとグイッと煽った。踊り疲れて火照った身体にキンキンに冷えたビールが染み渡っていく感覚が心地よく、いつもは据わっている鷹山の眉が微かに緩んだ。そんな鷹山を見て美鶴は微笑んだ。鷹山はビールを三分の一くらい飲んで息をついた。すると美鶴はここぞとばかりに携帯を取り出し期待のまなざしで鷹山を見つめた。
    「ようちゃん、脱ぐ前にその格好を撮ってもいいですか…?!」
    鷹山はしばらく黙り込んだ後、眉間に皺を寄せて答えた。
    「………いいぞ。」
    「すごい嫌そう!」
    美鶴は嬉しそうに携帯を構えた。鷹山はポーズはとらんぞとばかりに明後日の方向を向いて再びビールを煽った。一二枚撮る程度だと思っていた鷹山だったが、美鶴の携帯から連写音が聞こえてきたので驚いてやめさせた。沢山撮れて満足したのか、美鶴はにこにこ顔で再び祭り広場に向き直った。丁度祭囃子が始まり、山車が再び広場にやってきた。祭りが始まった時は辺りがまだ明るかったが、最後のパレードは山車についたガス栓に灯った火に照らされて、一層おどろおどろしくそれでいて美しい様子だった。美鶴は、何度見ても見事だと感嘆の声をもらした。
    「お祭りっていいですね。僕も参加してみたくなりました。」
    練り歩く山車を眺めながら美鶴が呟いた。鷹山はそう言って目を細める美鶴の長いまつ毛を横目で見ながら言った。
    「なら、来年だな。」
    すると美鶴は憂いを含んだ表情で俯いた。
    「来年……来年もこの里にいられると良いのですが…」
    鷹山は残ったビールを飲もうとしていた手を止めて美鶴を見た。美鶴は広場の方に目線を向けたまま話し続けた。
    「実は父に、早く帰ってこいと言われてるんです。僕が何をしたいのか分からないって。傍から見たらそうですよね。でも、ようちゃん優しくて、こんな僕でもそばに置いてくれるので…ダメですね、甘えてしまって。」
    美鶴はから笑いしながら下を向いた。鷹山は美鶴に声をかけようとしたが、美鶴の表情が前髪で隠れてしまい、言葉に詰まった。
    「ようちゃんが何も言わない限りは出て行かないって言いましたけど、ようちゃんに言われれば潔く出ていくってことでもありますから、邪魔になったら遠慮しないでちゃんと言って下さいね。」
    そう言って顔を上げた美鶴はいつものように笑っていた。口を開こうとした鷹山を遮るかのように、山車の大太鼓の音がドドンと鳴り響いた。二人の前を夕依が参加している山車が横切った。
    「あ!夕依ちゃんですよ!」
    美鶴は夕依に向かって手を振った。夕依は美鶴に気付いて恥ずかしそうに笑った。
    「はぁ〜〜〜夕依ちゃんほんとにかわいいです…さすがようちゃんの従妹…」
    そう言ってまた表情を緩めている美鶴を横目で見ながら、鷹山の中でまた暗く重い感情が渦巻いた。鷹山は無意識に口にした。
    「……夕依が好きか?」
    そう言われて美鶴は山車を見ながら元気よく答えた。
    「はい!もちろん!」
    そう答えて鷹山の方を見ると、美鶴は鷹山の表情が微かに影っていることに気付いた。鷹山は美鶴と目を合わせないまま続けた。
    「……なら、俺じゃなくて夕依の方がいいんじゃないのか?」
    「……え…」
    美鶴は鷹山の言葉に、口角を上げたまま顔を強ばらせた。鷹山は止まらずに続けた。無意識に次々と言葉が溢れてきた。
    「俺は人付き合いは下手だし、刀を作る以外できることもないし、何より男だ。俺とお前が一緒にいるメリットなんて無いだろう。…なら、年が離れていても愛想が良くて女の夕依の方が…」
    鷹山がハッとして美鶴を見ると、美鶴の頬には一筋の涙が伝っていた。鷹山は驚いて目を見開いた。
    「っ…遠慮なくとは言いましたけど、急でびっくりして、つい…ごめんなさい…」
    美鶴は両手で涙を拭ったが次々と溢れてきて止まる様子がない。鷹山はどうしていいか分からず、その場で動けずにいた。
    「すみません、僕今日は外泊しますね…!荷物は、明日取りに行きます…」
    「おい、美鶴」
    美鶴は顔を伏せたまま、祭り広場から走り去った。暗がりに消えていく美鶴の後ろ姿を、鷹山はただ見ていることしか出来なかった。

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    ue_no_yuka

    DONE奥原氏物語 前編

    ようみつシリーズ番外編。花雫家の先祖の話。平安末期過去編。皆さんの理解の程度と需要によっては書きますと言いましたが、現時点で唯一の読者まつおさんが是非読みたいと言ってくださったので書きました。いらない人は読まなくていいです。
    月と鶺鴒 いつか罰が当たるだろう。そう思いながら少女は生きていた。

    四人兄弟の三番目に生まれ、兄のように家を守る必要も無く、姉のように十で厄介払いのように嫁に出されることもなく、末の子のように食い扶持を減らすために川に捨てられることもなかった。ただ農民の子らしく農業に勤しみ、家族の団欒で適当に笑って過ごしていればそれでよかった。あとは、薪を拾いに山に行ったついでに、水を汲みに井戸に行ったついでに、洗濯を干したついでに、その辺の地面にその辺に落ちていた木の棒で絵が描ければそれで満足だった。自分だけこんなに楽に生きていて、いつか罰が当たるだろう。そう思いながら少女は生きていた。

    少女が十二の頃、大飢饉が起こり家族は皆死に絶えたが、少女一人だけが生き長らえた。しかし、やがて僅かな食べ物もつき、追い打ちをかけるように大寒波がやってきた。ここまで生き残り、飢えに苦しんだ時間が単楽的なこの人生への罰だったのだ。だがそれももういいだろう。少女はそう思い、冬の冷たい川に身を投げた。
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