子羊君は何も知らない「とても美味しいですね! テメノスさん」
「気に入ってくれてよかったです。お陰様で、私も久々にこの店に来られました」
「…………」
骨付き肉を頬張るクリックに、テメノスはにっこりと微笑み返す。よほど腹が減っていたらしい。体が資本の聖堂騎士だ。不穏分子への対応や、魔物の討伐。荒事に関わることが多いだけに、栄養補給も大切だろう。彼は本当に美味しそうに物を食べるので、見ているだけで気分が良くなる。
テーブルに並ぶ、スパイスを利かせた獣肉に、この辺りでは珍しい魚のグリル。野菜と果物を煮て作ったパイに夢中になる横顔を、甘ったるく見ていたテメノスだったが、隣から聞こえてくる咳払いに真顔に戻る。気まずそうに黙々と食べ続けるオルトと目配せをし、互いに曖昧な表情を浮かべた。
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