まどろみの敷布───とろり、とろり、
やわい快楽に浸け込まれて、体が、頭が、彼に触れられた箇所からじわりじわりと溶かされていく。
そんな感覚に包まれながら、それでも快楽に流されぬよう、縋るように壱櫟は碧村の首に腕を回す。
「…ん、…ぅん…っ…あきら、さん……」
「ん…、なぁに、壱櫟くん」
「っ、ぁ……んん…」
鼓膜を擽る碧村の声が心地良く感じると同時に、そこからじわりと痺れるような快感を拾ってしまえば、ひくりと肌が跳ね、喉が勝手に喜びに震え声を漏らす。
「……ぁきら、さん、…あきらさん…」
「うん、壱櫟くんどうしたの、僕はここにいるよ」
思う様に回らない口で愛しい彼の名を呼べば、すり、すりと額を合わせ、髪を撫でながら頬を擦り寄せてくれる。解かれた彼の髪が頬や首に触れて、少しだけ擽ったかった。
「……あきらさん、きもちぃ…?」
「…うん、すごく気持ちいいよ。壱櫟くんは?気持ちいい…?」
上手く力の入らない手で、月明かりに照らされ、陽の光の下で見る普段とはまた異なった美しさを帯びた鈍色の髪に触れながらそう問えば、彼は頬を緩ませ、嬉しげな声で答えを返してくれた。
「…う、ん、……きもち、ぃ……」
その答えに安堵して、あたたかくて、ふわふわして、与えられる快楽に思考さえ絡め取られて。
快楽の涙に溺れつつも薄く開いていた翠玉の瞳は何度か瞬きをした後、もう限界だと言うようにゆっくりと閉じられた。
「…壱櫟くん…?」
蕩けきった表情で瞳を閉じ、一定の間隔で胸を上下させる壱櫟に気付いた碧村が静かにその名を呼ぶ。しかし、帰ってくるのは意識の覚醒を示す返事ではなく、穏やかな寝息のみだった。
「……ふふ、おやすみ、壱櫟くん」
桃色に染め上げられた肌、緩んだ唇、閉じられた瞼、そこから快楽に蕩ける様に零れ落ち、僅かに光を放つ雫。
色濃く染み付いていた隈はもう薄っすらとしか残っておらず、青白さすら感じていたあの頃と比べるまでもなく血色も良い。
その寝顔に何度か口付けを落とし、柔らかな赤い髪を撫で、目の前で眠る彼の好きな低く穏やかな声で囁けば、緩んだ口元が僅かに笑みを作った。
──翌朝(昼)。
「………………ほんっっっとにごめんねあきらさん…」
「んふふふ、いっぱい寝られてえらいねぇ壱櫟くん」
ベッドの上で普段は体格のいい体を申し訳なさそうに縮め頭を下げる壱櫟の髪を撫でる、朝(昼)ご飯のにおいを纏わせた碧村の表情は柔らかく、ふんにりとした穏やかな顔だったそうな。