どろり星の無い真っ黒な夜空に、切り取ったような三日月が張り付いている。
ガス灯ひとつ無い道に、ざく、ざく、と砂利を踏む軍靴の足音だけが響いていた。いつもの帰宅する時に通らないが、この歩きにくくて暗い田舎道は私邸に続く一番の近道だ。鯉登はこの道が好きではなかった。しかしながら今日は務めが長引き、どっぷりと日が暮れてしまった故、早く帰って湯が浴びたい気持ちが勝り渋々歩いている。
ざく、ざく。
夜道に反響する足音だけが嫌に耳につく。
暫くして言い様のない違和感を覚えた。
鯉登は思い切って立ち止まり、周りを見渡す。
―……舐めるような、人の視線を感じる。
手元の燈籠を掲げてみた。しかしながら、田んぼと雑草が生えた空き地が薄ぼんやりと黒い切り絵のように広がっているだけだった。
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