憑(体験版) 幽鬼のような男であった。
猫背の男は町内をフラフラと彷徨い歩いている。
私がその男から目を離せなかったのは彼の上下真っ白な衣装が血に濡れていたからであり、彼の右手に「何か」が握られていたからだった。
男は私と目が合うとヘラリと笑って会釈をした。私も異常な状況に混乱し礼を返した。
すると男は嬉しそうに私に近づいてきた。逃げるべきだと脳は冷静に判断していたが、足が竦んで動かない。
男は「それ」を私に見せる。街灯の灯りで「それ」が何なのかよく判別できた。
悲鳴を上げることはできなかった。
そんな私の様子に満足した男は己の成果に満足したのか、興奮した様子でどこかへ行ってしまった。
それが彼と私との初めての邂逅であった。
6418