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    RDnr99009

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    RDnr99009

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     私たちは嘘つきだった。
     本当に言うべきことは言えないまま、顔を隠して、それでも隣にはお互いを必要としていた。
     でもドクター、ひとつだけ。どこにも行かないと言ったこと。これは嘘じゃない。あなたから見えていなくたって、私はいつだってあなたの隣にいる。これだけは覚えておいてね。
     そう眠っているドクターの耳に囁いた。きっと彼が持つ膨大な記憶の中から、私と過ごした日々が消えていっているところだろう。
     私はうまく笑えただろうか?クララは彼とした最後のやり取りを思い返す。見慣れたターディスとは違った、白くシンプルで随分と狭い部屋の中、相対した大切な人。もう私の名前を呼びはしない。ずっと続けばいいと思っていた旅路の、終着点はもう来ていた。
     涙をぬぐい、クララは立ち上がった。さようならは言わないでおこう。彼ならいつかまた、私を見つけ出してくれる、そんな気がした。


     どうしてか、涙がこぼれる時がある。
     たとえばふとした瞬間や、ゆめから醒めた時。悲しいことというのは一過性のものではない。唐突に古傷が沁みるように痛むこともある。だからきっとこれも、私の少なくないどれかの傷の蓋が開いて、感情が漏れ出てしまったのだろう。
     しかし、不思議なことに、どの思い出の蓋が開いてしまったのかは、自分でも検討がつかないのだ。どことない寂しさ、冷たい風に吹かれているような、足元がおぼつかない感覚。ふたつの心臓が浮くような居心地の悪さを覚える。
     そんな時に、いつも私は何かを言いかける。言いかける、というより口をついて出そうになる、という方が適切かもしれない。とにかく口を開いて、そのまま言うべきことを見つけられずに宙ぶらりんになる。それでもなんとなく、誰かの名前を呼ぼうとしていたような、そんな気がするのだ。
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