揺蕩う恋草蓮花塢の夜は美しい。
月明かりが水面に映り、天地が逆転したかのような眺めが見渡す限りに広がる。
湖上の蓮の花が揺らぐのを見ながら荷風酒を呷り、ほうと息を吐いた。
部屋には藍忘機の奏でる忘機琴の音色が満ち、魏無羨は夢見心地であった。
「魏無羨、飲み過ぎだ。何甕飲みつくしたと思っている」
雲夢江氏の宗主である江晩吟の凜と響く声音がじわりと苛立ちを含み始めたころ、魏無羨の後ろにはとても大きな酒甕が三つか、四つほど転がっていた。
藍忘機はその苛立った声にぴたりと琴の弾く指を止め、しばし様子を見る。
「あのなぁ、江澄。お前が俺をここに呼んだんだろ。そろそろ話をしたらどうだ。含光君は俺みたいに暇じゃない。藍湛……音を止めないでくれ」
6069