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    天子(てんこ)

    @wanxian_1010

    成人済 mdzs/cql 原作.ドラマ.アニメ履修済
    妄想垂れ流し できればだれかネタにして 誤字脱字その他ミス多ド素人
    ひたすら天天な忘羨 内容は薄い

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    天子(てんこ)

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    忘羨/曦澄

    某映画の某曲が忘羨すぎて御剣デートさせたくなってしまった
    江澄の恋路がメインっぽさありますが、メインは御剣デート忘羨です
    後日、曦澄side予定

    ※誤字脱字その他ミスがある可能性大※

    #忘羨
    WangXian
    #MDZS
    #mdzs
    #曦澄

    揺蕩う恋草蓮花塢の夜は美しい。
    月明かりが水面に映り、天地が逆転したかのような眺めが見渡す限りに広がる。
    湖上の蓮の花が揺らぐのを見ながら荷風酒を呷り、ほうと息を吐いた。
    部屋には藍忘機の奏でる忘機琴の音色が満ち、魏無羨は夢見心地であった。
    「魏無羨、飲み過ぎだ。何甕飲みつくしたと思っている」
    雲夢江氏の宗主である江晩吟の凜と響く声音がじわりと苛立ちを含み始めたころ、魏無羨の後ろにはとても大きな酒甕が三つか、四つほど転がっていた。
    藍忘機はその苛立った声にぴたりと琴の弾く指を止め、しばし様子を見る。
    「あのなぁ、江澄。お前が俺をここに呼んだんだろ。そろそろ話をしたらどうだ。含光君は俺みたいに暇じゃない。藍湛……音を止めないでくれ」
    せっかくいい心地でいたのにと息を洩らしてそう言うと、藍忘機は魏無羨を一瞥して再び弦にその白く美しい指をかけた。
    「誰が藍忘機を呼んだ!」
    「……!」
    江晩吟はガタリと音を立てて立ち上がって紫電をバチバチと光らせ、それに対抗して藍忘機は素早く避塵に手をかけ、魏無羨の前へ出る。
    いつまでも仲の悪い二人を見てまぁまぁと諭し、魏無羨は守るように自分の前に立つ藍忘機の肩に腕をかける。そのままこてんと藍忘機の肩に頭を乗せると、藍忘機は避塵から手を離した。
    「ああ、それは俺だけど。でも、俺よりも沢蕪君を知ってるのは他ならない藍湛だ」
    「っくそ…!」
    その言葉に江晩吟はぐうの音も出ず、紫電を納めて視線を逸らし、席にドカリと座って器に残っていた荷風酒をぐっと飲み干した。
    江晩吟がどうしても魏無羨に沢蕪君に関する相談をしたかったのには理由があった。それはこの無言の数刻にも大いに関係している。
    「なぁ、江澄。お前は何に頭を悩ませているんだ?雲夢の宗主になったのも最近の話じゃないだろ。まさか、沢蕪君のことを好きになったとか!」
    「……っ!!!!!」
    顔を茹で蛸のように赤くして黙ってしまう江晩吟を見て、魏無羨は口角が下がらなくなってしまった。
    「なんだ、言ってみろ、違うのか?ほら」
    「…っ、そ、それは…」
    魏無羨はそう言うと、再び言い淀む江晩吟の隣に座り直して肩を引き寄せた。藍忘機はその様子に眉間を寄せたが、魏無羨に目で合図をされ、ため息をついて再び忘機琴を奏で始める。
    その穏やかな音色に江晩吟は心を落ち着かせ、ぽつりと洩らした。
    「……あの人には、好い人がいるだろうか」
    ふるりと長い睫毛を震わせて、顔を赤くしてまるで乙女のような思い詰めた顔をする江晩吟に、魏無羨は笑ってしまうのを堪える。
    「俺はそんな話聞いたことないけど…藍湛、どうだ?知ってるか?」
    「……いや、私も知らない」
    魏無羨は、まさか江晩吟が藍曦臣に想いを寄せているなど予想もしておらず、連れてきたのが見当違いで藍忘機に申し訳ない気持ちになった。
    もちろん藍忘機が兄の恋路など把握している筈もなく、魏無羨は「そうだよなぁ」と苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
    あの藍曦臣が女と逢瀬を重ねているのを見たこともないし、ましてや雲深不知処内では男女別れて生活をしている為、外にいる時くらいしかその場面に出くわさないであろう。
    しかし彼もいい年齢であり、想い人の一人や二人いてもおかしくないのだ。
    「…そうか、ならばこの件は聞かなかったことにしてくれ。わざわざ呼び寄せて悪かったな」
    「あ、おい待て江澄!」
    江晩吟は早口でそう言うと、さっと立ち上がり部屋を出て行ってしまった。

    部屋に残された魏無羨と藍忘機は顔を見合わせてため息を吐く。
    「あの江澄が…沢蕪君をねぇ…」
    すぐに追いかけたところで、ああなってしまった江晩吟は手に負えない。魏無羨は藍忘機の隣に座り直して酒を呷り、再び奏でられる琴の音を聞きながらぼんやりと窓の外を見た。水面にゆらゆらと蓮の葉が揺れ、釣られてゆらゆらと揺れる。
    「なぁ、藍湛。お前はどう思う」
    琴を弾く藍忘機の邪魔をするようにくたりと寄り掛かり、魏無羨は悪戯に笑いかける。
    「どう、とは」
    藍忘機はあまりに興味のない内容であり、己の意向を問われても困ると言わんばかりに顔を顰める。その様子を見て少しだけ残念そうにする魏無羨は、藍忘機の肩をぽんと軽く叩いた。
    「あはは、そんな顔するなよ……俺は応援してやりたいけど、相手があの沢蕪君じゃなあ…」
    「…魏嬰、何が言いたい」
    ぶつぶつと何かを呟き始めたので琴を弾く手を止めて顔を見遣ると、魏無羨は藍忘機を見上げて懇願した。
    「藍湛、ちょっとだけ協力してやってくれないか。俺の義兄弟の恋路なんだ。応援しないわけにはいかないだろ」
    上目遣いでねだった後に耳元で囁く魏無羨に、藍忘機は心臓を高鳴らせる。横にいる愛しい彼は、こうして無意識に自分のツボを突いてくるのだ。藍忘機は音を立て始めた心臓を落ち着かせるために深いため息を吐き、「わかった」とだけ答えて再び弦に指をかけた。

    魏無羨は「江澄と話をしてくる」と藍忘機にそう告げ、部屋を後にした。
    夜の蓮花塢はあちこちに行燈や灯篭が置かれ、月明かりとはまた違う暖かな光で溢れてなんだか心地がよい。夜風に吹かれながら歩き慣れた廊下を通り、江晩吟の自室に向かった。

    目的の部屋の前につき深呼吸をしてからそっと戸を開ける。江晩吟はまだ寝ておらず、寝台に腰を掛けていて、まるで拗ねた子供の様にこちらを一瞥した後にふいと顔を背けた。
    「江澄」
    名前を呼んでやると、江晩吟はゆっくりとこちらを振り向く。
    「……悪かった。ここに呼んだのは俺の方なのに。含光君にも……謝罪を」
    「あはは!お前、大人になったなぁ。藍湛は気にしてなんかないさ。ほら、酒を持ってきた。お前の話を聞かせてくれ」
    珍しく素直に謝罪する江晩吟に、魏無羨は目を丸くして声高らかに笑った。
    寝台に座る彼の肩を組んで座卓へ移動させ、抱えてきた甕から荷風酒を注いでその器を突き出すと、江晩吟はそれを受け取って飲み干す。
    「……あれは、あの観音堂での出来事からしばらく経ってからだ」
    蓮の葉の爽やかな香りが鼻を抜けるのを感じながら、江晩吟は魏無羨に酒を注いで渡した。

    それは藍曦臣が閉閑したと聞いて、雲深不知処へ出向いた時である。
    江晩吟は自身が来たところで何の役に立つのだと苛立っていたところに、閉閑したはずの藍曦臣が目の前に現れ、屈託のない笑顔を向けたのだ。
    自分にそんな顔を向けてくれるのは両親と姉、そして魏無羨くらいだと思っていた江晩吟は、その笑顔にどうしようもなく胸を焦がしたのであった。
    それからというものの、なぜか藍曦臣と出くわす回数が増え、その度にあの凛とした落ち着いた声で名前を呼ばれると、堪らなく胸が痛むようになった。

    こくりこくりと、自分の恋路を洩らすごとに酒を呷る。
    酔いが回ったのか、もしくはこの話が照れくさいのか。首筋をはじらいに染める江晩吟の様子を見て、魏無羨は口角が上がりっぱなしになっていた。
    「……それは惚れるには十分すぎるな」
    (沢蕪君……なかなかやるな……)
    魏無羨は藍曦臣の言動に対して思うところがあり、これは楽しくなりそうだと心を躍らせる。
    ぽつりぽつりと、言葉を紡ぐごとに全身が赤くなっていく江晩吟を見れば、彼がどれだけ藍曦臣に惚れてしまっているかがわかった。
    「俺は、あの人のことを知りたい……」
    江晩吟のそれは本当に小さな呟きで、しかしそれが彼の本心だった。
    そんな彼をみて放ってはおけない魏無羨は、うんうんと話を聞いては頷き、さぁどうしてやろうかと考えていた。

    魏無羨は一頻り話を聞き、藍忘機の元へと帰ってきた。
    彼は先ほどと変わらず美しい音色を奏でており、気付かれないように部屋に入って後ろから抱き締めた。
    「…話は済んだのか」
    「ああっ、藍湛、これからどうしようか」
    琴を弾く指を止め、やたら楽しそうにしている魏無羨の腕を引いてしっかりと腕の中に納めると、魏無羨はけらけらと笑っていた。
    「なぁ、藍湛、藍氏の男は雲夢の男に弱いのか?」
    「……うん?」
    腕の中で笑う魏無羨を見て、藍忘機は何が何だかわからないという顔をしている。すると、魏無羨の腕が藍忘機の髪をさらりと掬って口付けをした。
    「…そうなんだろうなぁ…お前は、俺に夢中なんだから」
    「……うん」
    魏無羨に誘われるがままに唇を重ねると蓮が濃く香り、ここが静室ではなく蓮花塢だということを思い出して、さっさと帰ろうと部屋を後にした。

    江晩吟は先ほど魏無羨と飲み過ぎたようで、部屋から出てこられず、二人はそっと蓮花塢を後にした。
    魏無羨自身も江晩吟の恋路を聞いて気分が高まってしまい、荷風酒の甕を八つも空けてしまったためフラフラしている。
    藍忘機はそんな魏無羨を横抱きにし、避塵に乗って夜空へ飛び立った。

    夜風が心地よく肌に触れ、上を見上げれば月輪が輝いて星もそれに同調して煌めく。そしてそこには愛する藍忘機の美しい顔がある。
    なんとも贅沢な光景に、魏無羨は軟らかい目色で彼を見つめた。
    「ああ、藍湛。俺、酔っちゃったよ。いつもの道だと早すぎて、酒が抜けない。お前は疲れるかもしれないけど……」
    「これじゃ雲深不知処に入れない」とぼやき、遠回りをしてとねだる。
    いつも静室で酒を呷っている魏無羨がそれを言ったところで理由にはならないが、藍忘機は駄々をこねる彼を愛おしく思い、「うん」と返事をして少し帰路を逸らしてゆっくりと避塵を走らせた。

    遠のく蓮花塢を見ると、まるで桃源郷のように美しく、そして儚さを感じた。少し寂しい気持ちが残るのは、慣れ親しんだ場所だからか。ここから姑蘇へ帰るときはいつも魏無羨は名残惜しい気分になるのだ。
    そんな彼を気遣った藍忘機は水面を走るように高度を下げ、そうするのが分かったかのように魏無羨が手を伸ばして蓮の花托を三本ほど掬いあげると、ぱしゃりと水が跳ねて月が揺らいだ。
    ぷくりとした実を取り出して藍忘機の薄桃の唇に押し当てると、彼はそれを食み、こくりと飲み込んだ。その動く喉仏が魏無羨の目を奪う。
    「はは、江澄に感化されたかな……」
    藍忘機に触れているのに、足りなくて仕方がない。今しがた唇を重ねた時の感触と熱を忘れられず、はぁと濡れた息を洩らす。
    「……魏嬰、あまり見つめないで」
    藍忘機は自分に向けられる熱い視線に耳を染め、精神が揺らぐのを必死に堪える。
    ふと擽られているような感覚がして彼を見ると、藍忘機の滑らかな白い衣の上から胸のあたりを指先で遊んでいる。御剣中の精神の乱れは命取りになり兼ねないというのに、魏無羨は何も問題がないとでも言いたげな態度であった。
    藍忘機は朝まで愛して彼を歩けなくしてやると心の中で決め、精神を集中させて再び高度を上げた。

    淡雲を泳ぐように、抜けては潜り、掴むはずのできないそれに触れ。避塵は鳥と戯れるように月の下を飛ぶ。
    「その白い肌は夜によく映えるな…俺の、うさぎちゃん…」
    そう言いながらするりと頬を撫でてふにゃりと微笑む魏無羨は、藍忘機にとって据え膳以外の何物でもないが、しかし今はいけないと聞こえないふりをする。
    魏無羨はそんなことお構いなしに、酔いにかまけて藍忘機への愛の言葉を次々と口にした。普段から美人ちゃんだの白菜ちゃんだのと口には出しているが、今日のそれはまた一味違う。
    「お前のこの月明かりに照らされると藍に見える黒髪も、いい香りで、俺は大好きなんだ…ああ、お前が俺の……なんて。本当に誇らしいよ」
    魏無羨は自分の顔に垂れる黒髪を掬ってすうと香りを楽しむと、堪らないと言った表情で口付けた。そして彼の褒め殺しはまだまだ止まることを知らない。口から零れるそれらは、藍忘機の理性をこれでもかというくらいに抉る。

    「あ、耳が赤くなってるな…それも好きだ…」

    「ずっと言えなかったけど、その綺麗な指も好きだ。お前が弾く琴音は極上だ。あと、俺の良いところを俺よりも知り尽くしている」

    「あはは!もちろんお前の含光君も愛してるよ!その立派なので奥を突かれると、俺はもう堪らなく気持ちがいいんだ」

    「あと、お前の声が好きだ…。凜としていて、でも優しくて、時には俺の腰を砕くくらいの色気があるんだ…ずっと聞いていたいくらい愛しい」

    「……なあ、藍二哥哥、聞いてるのか?…お前といれて、俺は幸せだよ……」


    「……っ魏嬰…!!!」
    容赦なく紡がれる愛の言葉は、普段よりも藍忘機の心臓を締め付け、避塵を揺らすのに十分であった。どれだけ彼が自分のことを想っていたのかが直接的に伝わり、愛しさが募る。それと同時に、ついに精神が揺らいでしまい、カクンと高度が下がる。
    「わわっ…あはは!!これは何かの遊具か?心臓が口から出そうになったぞ」
    「君……!」
    ひゅうと高所から落ちた瞬間、背筋がぞくりとした魏無羨は藍忘機の首にしがみつき笑う。
    既の所で湖に落下するところだったが、藍忘機は愛しい人を落とすまいと何とか持ち堪えたのだった。
    腕に抱える魏無羨はけらけらと楽しそうに笑っており、藍忘機は苛立って自身の額を魏無羨の額にこつりと当てる。
    「帰ったら仕置きだ……覚悟をしておきなさい」
    抹額が触れ、玻璃の瞳が真っすぐに注がれて、魏無羨の心臓はずくりと音を立てた。
    (ああ、この……)
    自分を求めている欲に濡れたその瞳が、自分だけを見ているその玻璃が堪らなく愛おしい。今すぐこの男に組み敷かれて、朝まで犯されて、全て食われて、愛されたい。魏無羨はその欲求を抑えきれずに抹額をするりと外し、口に食んで微笑った。
    「うん……それは大変だなぁ……、俺、もう酔いが覚めたよ、藍二哥哥……」
    魏無羨はそう言って脚をすりすりと擦り合わせて「早くお仕置きして」と藍忘機を見上げると、すぐさま避塵は方向を変えて雲深不知処へと向かった。
    その時、少し遠くに一筋の蒼い光が蓮花塢に向かって飛んで行ったのだった。


    雲深不知処へ着いた二人は即座に静室へと消え、どろどろに愛し合い、明け方までその声は止まなかった。


    早朝、藍忘機は抱き潰してぐったりとした魏無羨を抱えて冷泉に向かう道中、藍思追と藍景儀に遭遇した。
    ふと二人が目をやると、藍忘機の首元に幾つもの赤い痕と、その腕の中には藍忘機と同じ痕と歯形が幾つもある魏無羨が抱かれているのが見えた。瞬時に昨晩の激しさを察して、藍思追と藍景儀は顔が真っ赤になる。
    一体蓮花塢で何があったのか、何も言えずに狼狽えていると、藍忘機が二人に声をかけた。
    「私と魏嬰は冷泉に向かう。他の者は立ち入らないように」
    「っはい、含光君」
    「あ、あの、いえ、あの……はい……」
    二人は何ともいたたまれない気持ちになり、命令に従ってその場を立ち去った。



    その頃、蓮花塢の畔では二日酔いの江晩吟が、藍曦臣に支えられて歩いていた。
    彼らの恋の行く末は、また別の物語である。


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    1437

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