クズリ辺境伯は狼公爵の尻を蹴る「エヴァリスト・ウルヴァン殿。この様な事態に巻き込んでしまって本当に申し訳ない」
そういって深々と頭を下げる男の、銀色の髪の中にあるつむじを見ながら、俺はそっと溜息を零した。
今俺の目の前にいるのはレイ・ハーノヴァー公爵令息。
「事情はハーノヴァー公爵閣下からお聞きしたので頭を上げてください」
俺の言葉にそろそろと顔を上げたレイは深い海の様な青色の瞳をした美形だ。黙ってふんぞり返って座っていればきっと威圧感満載なんだろうが、申し訳無さそうにこちらを窺う様子はまるで叱られた犬。
豪奢な部屋の中、しょぼくれた大型犬のような男を前にして俺は今度は隠しもせずに深い溜息を零した。
事の始まりは昨夜開かれた夜会での出来事だ。
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