愚か者が見る夢「音楽やってるよ。何曲か作って、配信したりしてる。ゲリラライブも何回かしたし…ああ、バトルのBGMにもしてる。これ作って初めて皆に聴いてもらっ時、アガるって喜んでくれたんだ。嬉しかったなあ」
嘘だ
「皆?…仲間だよ。アカデミーの生徒だけど、出会ったのはそこから飛び出してからで。いっぱい話して、喧嘩もして、意見出しあって頭抱えてお互いなんとか励まし合いながら頑張ってきた。…皆、ボクの、大切な宝だよ」
嘘だ
「手持ちは今は5人いて…全員あくタイプ。皆小さい時から育てて…ああ、レベル上げも仲間が協力してくれて。短期集中だったから皆大変だったと思うけど頑張ってついてきてくれた。やっぱあくタイプだからやんちゃだし、まだ甘えん坊な子も多いけど、頼もしいパーティになったよ。特にドドゲザンはね、コマタナの、二人きりの時からずっと一緒に戦い方とか考えて、試して、辛い時も傍にいてくれて…心から信頼できる相棒って感じかな!」
嘘だ
「アカデミーは変わった。ボク達が見ていたあのアカデミーとは全然違う。明るくて、寛容で、先生たちも優しくて理解があって、皆楽しそうに生活してる。今はボクらも少しずつ、そこに馴染んでいこうとしてるところ。まだ緊張することもあるけど、皆でちょっとずつ、頑張っているよ。そう、この前放課後に買い食いしちゃった!すっごく美味しかった!新しい制服もたまに着てる。…でもやっぱり、こっちの方がまだ落ち着くかな」
嘘だ
「毎日楽しいよ。忙しいけど、充実してる。好きなことができる時間もちゃんと作ってるし、皆と会って色んな事話して、遊んで、笑って、あっという間に過ぎていく。ボクはボクのままで、ちゃんとここで生きて行けてる」
嘘だ
「……嘘じゃないよ」
それまで楽しげに語っていた幻が悲しそうに眉を下げる。
嘘つき。そんなわけない。
ボクに、そんな未来が待っているわけがない。
体も心も疲れ切って、痛みを誤魔化すために眠った夜に見た夢は、残酷なほど能天気で楽観的な幻が馬鹿みたいな笑顔で夢物語を語る悪夢だった。
夢なんて見たくない。
覚めた時の絶望をこの間抜けな幻に教えてやりたい。
「ボクは確かに今は幻だけど、嘘なんてついていない。だから、」
うるさい、口を開くな、そんな顔をするな。
夢の中なのに頭が痛い。割れそうなほど。
両手で抑えて蹲る。
早く覚めて。もう聞きたくない。
落ちる場所が高ければ高いほど、痛みは大きいのだ。
「お願いだから、これだけは聞いて」
耳を塞ぎたいのに頭が痛くて仕方がない。手が足りない。
自分とは思えないふざけた格好をした男が、悲壮な声で言った。
「絶対に、ここに来るまで『諦め』ないで」
目が覚めた。
春の陽気は痛いほど寝起きの目を焦がして、思わず瞼を閉じた。
目が覚めたことに、安堵と同時に悲しくなった。
今日もまた、諦めきれなかった。
「うそつき」
呟いた声は、早朝の空気を震わせて解けていった。
2024/4/1