どうぞ中まで。「ピーニャ、それ」
険しい顔をしたオルティガの声に顔を上げる。
眉を寄せた彼の指差す方に視線を落とすと、手の甲が赤く染まっていた。
「…あれ」
「あれ、じゃないっての!お前そこ、瘡蓋?ずーっと引っ掻いてたんだぞ」
「えー、気付かなかった」
まだできたばかりだった瘡蓋を爪先で剥がしてしまったせいで、じわりと滲んだ血液が広がっていたようだ。
まるで手に穴でも空いたかのような有り様に、ずっと眉を寄せたままのオルティガが自分のポケットから出したハンカチを差し出してくれた。
「ん」
「えっ、いいよ。自分のあるし」
「その手じゃ出せないだろ。ほら!」
引っ掻いていたほうの指先も爪の中まで赤くなっていて、確かにこれでは何かを触ることもできない。
「でも、オルティガのハンカチ汚しちゃうよ」
「良いって行ってるだろ!」
「血、洗っても落ちにくいし」
「ーーーもう!お前さては面倒くさいモード入ってるな?!ったく、ほら、つべこべ言ってないで手!出せ!」
「あ」
がしりと掴まれた手首を引き寄せられて、ハンカチが当てられる。生地に詳しくはないが冷たくてさらさらと触り心地の良いそれは、そこら辺で安売りしているようなものではないことはすぐに分かった。
「勿体ないよ」
「ハンカチとして間違った使い方してないんだから良いだろ」
「でも…」
「うるさい。オレがやってんだから文句言うな」
「文句じゃないけど」
苛立った口調とは裏腹に手付きは優しくて、傷に障らないように慎重に血をふき取ってくれている。重ねるように握られた手がふんわりと包みこんでくれる。
器用だな、と思ったが、それ以上に彼が優しいのだと思い至ってふっと息を吐く。
「オルティガ、優しいね」
「普通だろ」
「優しいよ」
力が抜けて、目の前で揺れるピンク色の頭に額を付ける。
「………ごめんね」
「謝んな」
「ありがと」
「ん」
オルティガの淡いピンク色のハンカチが赤く染まっていくのを、なんとも言えない気持ちで見つめる。
冷たくて柔らかくて優しいそれを、自分の血が汚していく。
「痛くないのか」
「うん。全然」
「…まだ、治んないのか」
「うん、みたい」
「他、怪我してないか」
「多分大丈夫」
「……確認、させろ」
「どうやって?」
「………決まってんだろ」
擦り付けるようにくっつけていた頭が上がり、至近距離で視線が合う。
掌を合わせたまま、軽く引かれて目を閉じた。
壊れた痛覚はあまり惜しくなかった。
いつだって優しく触れてくれる彼を感じることはできるから。
合わせた唇を軽く舌が這い、悪戯な表情に戻ったオルティガが覗き込むように笑った。
「全部見せろ」
END.