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    nnjn999

    @nnjn999

    短いのとか色々ヤバいの。

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    nnjn999

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    鍵垢で便乗したタグでいただいた台詞リクその1です。

    頂いたリクは「こっちへおいで」です。ありがとうございました!

    禁忌ふと、呼ばれたような気がして振り向いた。


    「…?」

    けれどそこにあるのはいつもの密やかな図書スペースで、こちらに意識を向けているような人はどこにもいない。
    気の所為だったかな、と前に向き直り目的の本を探し始めた。

    歴史学のレポートの課題は「死にまつわる伝承について」だ。まだ比較的幼い生徒もいる中でなかなか攻めた課題だとは思うが、同時に興味深いとも思った。


    その課題を聞いた時、ピーニャの脳裏には一冊の本が過っていた。

    昔、まだこの学園が押し潰されるような空気に覆われていた頃。人目を避けるように、頭の中で反響する雑音を消し去るように、この図書スペースに籠もって本を読み漁っていた。
    そんな時に出会って読んでいた本の中に、今回の課題にはぴったりなものがあったと記憶している。

    不思議と本のタイトルはあやふやで検索ができなかったために手作業で探す羽目になった。
    莫大な本の中から手がかりの少ない本を見つけるのは困難かと考えたその時。


    「…、あった」

    思わず漏れた声に、はっと手で口を覆って辺りを見回す。
    やはりこちらに注目している人はいなかった。

    ほっと一息ついて、その少しざらついた加工がされた背表紙に指を掛け、本を手に取った。




    本の内容は、記憶にあったものと同じだった。


    パルデアがまだ国家としての領地をはっきりと確立していなかった頃。王政を取っていた当時の死生観や死者の埋葬方法などが事細かに書かれたその本は、中盤の章で少しだけその筆致を変えていた。




    『或者は生命有る儘に身を灼熱に焼かれ、また或者は四肢を切り離され嶽下へと落とされた。悪逆の王は彼らの記した己が所業を決して是とせず、彼らこそが国家を貶めたる逆賊と誹り其の名を墓標に記すことすら認めることはなかった。憐れ正しきを貫かんと筆を執り声を上げる者達は皆大いなる愚者により縊り滅される次第となった。彼らの切歯扼腕たるや彼の大地を覆う草木を騷めかせ、憤怒の声は強靱な蔦と化し悔恨の導く先へと這い回った。其れは怨毒を孕み激憤を叫び共に鳴る御霊を求めて幾千の月日を越え、我等の意志を受け取るべき最善の槽を此処にて手に





    「随分熱心に読んでいますねえ」


    掛けられた声に顔を上げる。


    「あ……?」


    気が付けば、そこはよく知ったジニアの自室の座り慣れたソファの上だった。


    すっかり明かりの消えたリビングで、本を広げていたピーニャは不思議そうな顔で声を掛けてきた相手を見上げる。


    「今日はなんだか上の空のような様子でしたが、その本、そんなに面白いんですかあ?」



    今日。そうだ。あの後図書スペースで放課後を迎え、いつものようにジニアの部屋で共に食事を取り、就寝したはずだ。



    夜の帳が下りた部屋はやけにしんと静まり返っていて、耳の裏がキンと痛むほどだった。



    「はい。…これ、課題で」


    ジニアの言葉に答える自分の声が、やけに遠くから聞こえるようだった。


    「この本、前から、知っていて」


    頭ではなく別の場所が自分の口を動かしているようだった。言葉が勝手に滑り落ちる。



    「多分、ずっと、ボクを…探していて」



    どういうわけかその表情がまったく読み取れないジニアが、自然な動作で隣に座った。
    腕に触れるその感触が、まるで土人形のようにザラリと冷たいものに感じられて思わず身を引く。


    しかし、伸びてきた手がそれを許さなかった。



    背中から巻き付くように腹まで回った腕に、強い力で引き寄せられる。

    もう片方の手が顎を掴み、痛いほどに握られて上を向かされた。



    「ピーニャくん」



    無理矢理覗き込まれ、銀色にも似た複雑な虹彩を持つ眼に縫い留められる。



    鼻先が触れるほどの近さで、その声は鮮明だった。





    「こっちにおいで」





    ぷつりと、頭の後ろで何かが千切れるような音が聞こえた。





    「……、あ、れ、」



    ひとつ瞬きをすれば、そこには見慣れた顔がふっと目を細めていた。



    「先生?ボク、今、……んっ!?」


    やけにクリアになった視界に驚いて何が起きたのか訊ねようとした瞬間、開いた唇を覆われた。

    熱い粘膜が口内を性急に犯し、背中に回る腕に強く引き込まれる。


    「んっ…ふぁ、ん…せん、せ?んむ、っん」

    顎を押さえていた手が頬を撫で上げ耳を擽り髪をかきあげるように頭に回る。

    ばさり、と何かが床に落ちたような音がしたが、意識する暇はなかった。


    いつもよりも激しく奪い取るような口付けはピーニャの体からすっかり力が抜けるまで続き、くたりとした体がジニアの胸に倒れ込んだ。


    「…大丈夫ですかあ?」
    「だい、じょぶ、では…ないです」
    「ふふ。…場所、変えます?」


    耳元で囁かれた言葉の意味を理解して、込み上げる羞恥に頬を染めながら小さく頷いた。



    それでは、と流れるように脱力した体を抱え上げられ、慌ててしがみつく。


    ちらりと視界に入ったのは、床に落ちた古びた本。



    「あれ、?」

    「どうしました?」


    「…………いえ」


    開いたページには模様のようなものが並ぶだけで、その中身を読み取ることはできなかった。



    「先生、あんな本持ってました?」



    ジニアの蔵書にはなかったような、と思い訊ねれば「ああ」といつも通りののんびりとした口調が返ってきた。




    「あれは、明日レホール先生にお返しする本です」



    出てきた名前になんとなく納得がいき、それ以上を追求することはなかった。



    「ピーニャくん」

    「はい?」


    呼ばれた名前に顔を上げると、開いていた寝室のドアをくぐったジニアの眼が、明かりのない部屋でゆらりと灯ったように見えた。



    「今日は、少し覚悟してくださいねえ」


    何故、という疑問は、酷く優しく降ろされたシーツの上ですぐに溶けて消えていった。








    終わり
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