じぶんできたんですねえ「一人でいかないで、ボクを連れて行ってくださいね」
そう呟いた時、あの人は「そうですねえ」といつもの緩やかな笑顔で、でもどこか嬉しそうに頷いてくれた。
繋いだ手は大きくて温かくて、だから、大丈夫だと安心できた。
どぷん。
お湯の中で聞こえる音は重たくて、水が動いている音なのかそれとも自分の体の中の音なのか区別がつかない。
首にかかる大きな手の力は強くて、思わず開いた唇からいくつもの泡が浮かび上がっていった。
苦しい。息ができない。水が重くて、体が動かない。
アァ、ナンデ。
首にかかる手に手を重ねる。
冷たい手。引っ掻いてもびくともしない。
ナンデ。
ナンデ。
違うよ。ごめんね。
ツレテッテクレナカッタンデスカ。
あの人は、こういう時そんな風に困った顔をしない。
苦しんで、本能的に藻掻くボクを見て、躊躇って手を離したりしない。
きらきらと煙が弾けて冷たい目をしたばけぎつねが現れて、憐れむように鼻を鳴らした。
げほ、と咳き込んで沈んだままの浴槽が真っ赤に色付いていくのを感じながら、目を閉じる。
瞼の裏で、あの人が笑っている。
嗚呼、あの人なら、
この首に手をかけて、こちらを見る目はきっとあの時のように嬉しそうに、
大好きな声でボクを呼んで、
ボクがさいごにみるものも、
きくこえも、
ぜんぶ、
あのひとのものだけにして、
そして、あのおおきなてで、
ボクをつれてってくれたのに
「 」
おかえりなさい、