手と手「オルティガ」
ん。と差し出された手を見る。
大きな手。上向きに開かれたその掌から、顔を上げて視線を合わせる。
「何の手?」
「荷物。持つよ」
それ、とピーニャが差したのはオルティガが両手で抱えているいくつもの買い物袋だ。中身は殆どが今さっき立ち寄った店で買った様々な機器のジャンク品で、これからオルティガの手により新しい命が吹き込まれる予定の物たちだ。
「え、良いよ。オレの買い物だし」
「でも重いっしょ」
ほら、と流れるように手にした袋を持っていかれて「あ」と低い声が出る。
両手に溢れていた袋はその間に右手のひとつになり、オルティガは不満げな顔で自分よりずっと高いところにある顔を見る。
「…子供扱いヤメロって言ってるだろ」
ぶす、とした顔は間違いなく「子供」のそれだろうとは分かっている。言行が一致していないのは分かっているが、それでも不満は不満なのだ。
何故なら、今日2人で買い物にきているのは単なる友達同士のお出かけ、というものではない。
「そんなことしてないって」
オルティガから掬い上げた袋を2つ左手で掴んだピーニャは、そんな反応にも笑って空いた右手を再び差し出した。
「ほら、これで手、繋げるっしょ?」
目を開いてピーニャを見れば、にこやかな顔の中で耳だけがほんのりと赤く染まっている。
ぶわ、と首から上に一気に血が登ったような気がした。
なんだそれ、恥ずかしい、ピーニャのくせに、そういうのはオレがやりたかった、オマエも恥ずかしがってるじゃん。
色々言いたいことはあるのに、ぱくぱくと開閉する口からは碌な言葉は出てこない。
「……………ん」
喉から絞り出したような返事と共に、向けられた掌に思い切り手を叩きつけて力の限り握り締めた。
「あいたたたた、ちょ、痛いって!」
「ほら、行くぞ」
体を傾けて悲鳴を上げたピーニャの手を引いて歩き出す。
「待ってよ、オルティガ」
慌てて足を動かしたピーニャは、それでもリーチの差なのかすぐに隣に並んで歩いている。
それもなんだか面白くなくて、重ねた手に更に力を篭めた。
※
「ピーニャ、」
僅かに離れた先で、オルティガが掠れた声で囁いた。
触れる息は熱く濡れていて、その湿度に胸の奥がぎゅうと締め付けられるようだった。
指を絡めて重ねた手は汗で張り付くようで、このまま離れないのではないかと思う程ぴったりと合わさっている。
ベッドヘッドに背を預け、凭れ掛かるオルティガの体重でシーツに体が沈む。
「…あのさ、」
いつも威勢よく飛び出す幼い声は、少しだけ低く、緊張と興奮を含んでいるように聞こえた。
「オレ、が、したい」
いつもよりも長く深いキスのせいか蒸気した頬でそう言ったオルティガに、ピーニャも早鐘を鳴らす心臓を誤魔化すように唇を噛み締めて小さく頷いた。
「うん。……いいよ」
これが正解なのか、本当は良く分からない。
けれど、自分を見つめるオルティガの目が見たこともない程熱く、真剣に揺れているから。
目を細めたその顔が、どこかいつもより大人びて見えて、息を呑む。
「ピーニャ」
再び降りてきた綺麗な顔に、熱っぽい瞼を閉じる。
絡まる手に重みが加わり、真っ白なシーツに飲み込まれていった。
終わり