望まぬ限りは、ただし、望めば。 永遠の命があるとすれば。
不老不死があるとすれば。
自分ならばどうしていただろう。
なにとなにを混ぜたらそうなるんだかさっぱりな薬らしきものを飲んででも、永遠を手に入れたい人間とやらはいる。
ずっと若いまま、健康なままでいたい。そのためならどんな手を使ってもいい。そんな欲望があるからこそ成り立っている、怪しい商売だってあるほどに。
ダイにとって、永遠なんかいま考えるべきことじゃなかった。
自分ならばどうしていただろう、なんてことよりも、いまのことしか考えられない。大事なのは、いまと、これから。
たまに、昔のことだって考えないわけじゃない。例えば、目の前にいるカオルと仲直りする前の、険悪だった頃のことだとか。
じいっ、と。
親友の瞳を見つめてやれば、嫌そうに眉間にしわを寄せられた。これはこの親友がよくやる表情だが、ちっとも飽きない。きっと一生見飽きることはないだろう。
無表情だって、たまに見せる微笑だって、怒った顔だって……
「暇なのか? 僕は特訓で忙しい。見てわからないのか」
カオルが軽く手をふった。じゃれつく獣を追い払うようなしぐさに、ダイは笑った。
言葉だけなら素っ気ないが、いまのカオルには確かな熱がある。怒りのあまり冷え切って、氷そのもののようだった頃とはちがう。閉ざし、隠して、自分の心のうちを他人に見せたがらなかった頃とは、全然ちがう。
「そこまで馬鹿だと思うなよ。わかったうえで見てんの」
「ますますわからない。相変わらず無神経だ……班長が、あの人がいたら叱っていただきたかった」
班長である、ミレシアンが来てからというもの。カオルから肩の力が抜けたように見える。
カンナ、ローガン、エルシィ、アイリース。みんなみんな、いい方に変わっていった。悪いように変わった人間なんて一人もいなかった。
「……いや……あのチビは悪い方に進化したろ。なんだよあれ! ダークナイトにでもなっちまったんじゃないのか!」
「パラディンと対極の存在か。お前が発言に気を付けていないだけで」
「そうでもないと思うけどなあ〜!?」
エルシィときたら、自分以外が班長に気にかけられればすぐに目から光が消えるのだ。
暗い暗い沼の底のようなアレは、見るほどに気力が奪われそうで、見ていたくない。
「……ダークナイトにも、あのひとはなれたらしい……けど、ならなかった」
「なんにでもなれるのにな」
「なる気持ちはわからないわけじゃない。けど、あんなのはかなしいから……だったか。実際に対峙して……思うところがあったんだろう」
永遠を生きられるというのに。
そのわりに、班長でもあるあのひとには、感情があった。だからこそ、特別班の人間だって変われたのだろうとも思うが。
ダイはときどき、心配でたまらなくなる。
いっそあのひとが感情なんてなければ苦しまなかっただろう場面が、話に聞く限りでもたくさんあったから。どうして班長ばかり、不幸なのだろう。傷付くのだろう。
永遠って、そんなにいいものなのだろうか。
ダイは、ひとによっては妬み、欲しがるそれを、大事な人から取り払ってしまいたいときがある。
ただのひととなって、騎士団にいるのだっていいかもしれない。そうしたら、いつかダイより先に死ぬこともあるかもしれないが……
「……ハハハ。そんなもしもは、考えるだけ無駄だな」
「ダイ?」
「だって」
ずっと、ただのひとだった。
ずっとずっと、班長は、あのひとは普通の人間と変わらなかった。驕らず、神のように振る舞ったりだってしなかった。
こんな特別な存在になんてなりたくなかった、すべて投げ出してしまいたいとも願ってなどいなかった。
本人が願わないのなら、それでいい。
もし、願うことがあるのなら。
「そのときは……そのときで……駆け落ち………」
「何の話をしている?」
「ロマンチックなはなし」