「ーーーありがとうございます。ではまた」
チャリーン、リーン、とアンティーク調の心地よいベルの音が奏でた。ロロは両親へ綴るレターセットをいつもの店で買い、お気に入りのパン屋で昼食用のクロワッサンを買うために足を向けた。
花の街は美しい。ロロは心の底から思う。しかし魔力によって保たれてるこの美しい街をロロは自らの炎で燃やそうとしたが失敗に終わってしまった。
それが夢だったのか、何事もなく、花の街はまたいつも日常へと戻る。
『ロロさんはやっぱ優しい人ですね』
陽だまりのような笑顔を向けて笑う一人の少女。舞踏会でユウがロロにかけた言葉だ。
この女は何を可笑しな事を言うのだ、と、この世界から魔法を消し去ろうとし、魔法を使えないユウにも危害を加えた人間に対して掛ける言葉ではない。だだの嫌味かと思ったが、その黒い瞳はただ純粋にロロに対して、そう思って向けた言葉だと分かる。だから何と返したらいいのかと考えていると、さらにユウはロロを惑わせることを口にした。
『私、花の街をすごく気に入りました。また来たいし、それに……ロロさんのことをもっと知りたいので、だから連絡先を交換しませんか……?』
自分のことを知りたいとは意味の分からないことを言われたが、それが何故か悪くは感じなく、それに花の街を気に入ってくれたことが嬉しく思ってしまい、断る理由などなかった。
程なくして、ユウからロロへと手紙が届いた。先日のお礼、周りで起こった出来事、些細なことが愛らしい字で綴られていた。
それから月に何度か手紙のやり取りをするような関係になったのだ。
先程の店で真っ白のレターセットとは別に優しいピンクの色合いで控えめな薔薇が描かれてたユウに贈るレターセットも購入していた。
今回の返信は何と返そうか、とそれを考えるだけでも心が穏やかになる。目指しているパン屋まであと少しのところで見知った人物が目に入った。
「おや、あそこにいるのは副会長か。彼もあそこのパン屋の……はっ……?」
ロロは驚きのあまりその場で固まってしまった。副会長の隣を歩くのは、先程ロロが想い浮かべていたユウだったからだ。柔らかな雰囲気がある二人は仲良さげに笑い合い花の街へと消えていく。
ポケットからハンカチを取り出し口元を隠しながら二人が消えていった方を見ながら小さくロロは呟いた。
「くだらない……」
もう片方の手はクシャと便箋が潰される音が鳴る。
なぜ胸が張り裂けそうな気持ちになっているのか、ロロはまだその正体の感情の名は知らない。いや気付かないようにしていた。その正体に気づいてしまうのが怖かったからだ。