とわみら「見、たか…?」
「見てない、です、」
「怒らないから素直に言え」
「ごめんなさい、見ちゃい、ました、」
場所は財前邸、未來の部屋。ドアを開けたまま強ばった表情で固まる未來の手には自分の分と永久の分のミネラルウォーターが2本、永久の手には数世代前の充電器に繋がれたスマートフォンが握られていた。
やましい事は"今"はないしと永久にパスワードを教えていたのが仇となった。
よく言えばおおらか、悪く言えば大雑把な未來ははじめて携帯を持たされてから成人した今に至るまで1度もパスワードを変えたことがなかった。
おかげであっさり解除されてしまったのだ。
太田へ、定期的に携帯のパス変えろって言ってくれてありがとう、当時はうるせえなで話流しちゃってごめん、おかげで今大変なことになってるよ、ちゃんと話聞いとけば良かった…
今も仕事で財前邸を駆け回っているだろう太田を走馬灯のように思い浮かべて心の中で詫びる。閑話休題、未來の頭の中はやらかしたの5文字でいっぱいだった。
21歳の未來にはやましいことがなくても当時高校生の未來にはやましいことだらけだったのだ。
家から、この立派な檻の中から逃げたくて、グレにグレた。悪いとは言いきれないがけっしていい人たちとも言いきれない人間たちとつるみ夜通し遊んで家に帰らなかった。
そんな恥ずかしい頃の記録と思い出が詰まったものをよりによって1番見られたくなかった相手の永久に見られてしまった。
永久の前では大人ぶって振る舞うものの未來だって所詮ただの21歳のケツの青いガキで、好きな子の前ではかっこつけたいお年頃なのだ。
「とりあえずそれ置け、な?」
「う、うん…」
永久が画面を隠すように携帯を伏せた、背面には当時流行っていたからなんとなく貼っていたバンドのステッカーがある。劣化して色あせていた。
それも未來にとってはできるだけ思い出したくない思い出を思い出させるいいスパイスになる訳で。
それから目をそらすように1呼吸、持ってきたミネラルウォーターをテーブルの上に置いて永久の隣にどかりと座り永久を見た。
いたずらのバレてしまった子犬のように永久は俯いて固まっている。顔を覗き込もうと下から見たら今度はそっぽを向かれてしまった。
「んで?どれ見た?」
「…えっとね、舌に根性焼きしてるの、と罰ゲーム?で男の人とキスさせられてるやつ…」
「よりによって思ったよりもいっちゃんドギツいやつ見ちゃってんな」
カラーソニック開催前、北海道に帰ってしまった永久を連れ戻すため、腹を割って話し合った時に道を踏み外してグレたことは話していたので知られている、知られているのだがまさかそんな悪行の詳細まで見られるとは思わなんだ。そんなの自分がやられたらトラウマ確定ものだ。
いたたまれなくて変なもの見せちまってマジでごめんな〜!とわしゃわしゃと永久をこねくり回す。そんな未來の手を永久の大きな手がむんずと掴んで動きをとめた、真剣な目で永久は未來を見ている。
「未來くんってさ、そういうの好きなの…?」
「あ?」
「好き、ならさ、できるかわかんない、けど俺がんばるよ」
「まてまてまてまて瀬文早まるな」