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    ファンタズム春巻

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    POIPOI 23

    ナイト君の昔話

    祈り 俺がただ祈ることしか出来なかったガキの頃の話だ。俺は神ってやつを割と信じちゃいる。なんせ奴らの「ありがたい言葉」で生かされて来たわけだ。
     居るか居ねえか。そんなのはどうだっていい。そのありがたい言葉とやらで救われた奴も居る。そんだけだ。
     
     最初の飼い主はジジイだった。ジジイというには多少若かった気もするが、あんときゃ俺はガキだったからな。ジジイの区別なんかつきゃしない。みんなジジイだ。
     あのジジイはガキだった俺を拾った。まあそういう趣味のジジイだったわけだ。俺は自分で稼げる程賢くもねぇし、毎晩ジジイの相手させられてその対価に飯を食わしてもらったわけだ。
     あのジジイは痛くてナルザルへ祈る俺がどうも気に入ったらしくてな。毎晩毎晩痛めつけられてそりゃあキツかった。
     けど、最初のうちは痛かったが慣れて来て男の味を覚えたぐらいでジジイはおっ死んだ。
     借金で首が回らなくなったらしい。商売をやってて小金はあったらしいが、もっと金のある商売人に小金を根こそぎ持ってかれたらしい。細えことはガキだった俺には分かりゃしねぇ。
     分かるのはジジイが目の前で首を括ってるってことだ。自分で死ぬのはダメだった気もするが、ちゃんとザルの御許に行けるようジジイの亡骸に祈ってやった。
     うろ覚えの弔いの言葉と作法だったが、しさいさまのやってた通りに葬式を上げてやった。なんせ俺はナルザル教団育ちだからな。散々葬式は見て来た訳だ。
     見様見真似の葬式が終わりかけた時、あのクソババアが後ろに立ってた。厳つい護衛も何人か連れてたな。
     どうもこのババアがジジイを借金まみれにしてぶら下げちまったらしい。まあそれより俺は今日の食い扶持をどうしようか途方に暮れてた訳だが。
    「そこのボウズ。この葬式はお前がやったのか?」
     俺はこのババアは忘れようにも忘れられねぇ。
     キッツイ香水の香りに毒々しい化粧。とにかく香りがキツかった。
    「……うん」
    「アンタ見た感じ孤児かなんかだろ。こいつに飼われてたのかい」
    「……うん」
     ババアは値踏みするように俺を見てきた。あの鋭い目線は足が震えそうだったのは覚えてる。
    「アンタ、祈りの言葉は言えるかい?」
    「毎日のやつと弔いのお言葉ならちょっと覚えてる」
    「……そう。一つぐらい諳んじてみせてくれないかい」
     ババアに言われて俺は毎朝言わされてたナルへの朝の言葉を諳んじた。ざっくり言うと朝に生があることを感謝する言葉みたいなやつだ。
     ババアは難しい顔をした後にやりと笑って俺に言った。
    「気に入った。アンタの次の飼い主はアタシだ。アタシの為に祈りな」
     なんだろうな。俺にはこのババアの笑みは寂しげに見えたんだ。まあ断る権利なんざ俺にはねぇし、そのままババアに飼われる事になったわけだ。
     
     ババアの家はデカくて、使用人が大勢居た。
     俺はどうもババアに気に入られたらしく、朝と夜の言葉を時間になれば言わされた。
     あとついでにババアの飼ってる年上の連中に虐められもしたが、デカくなった時に全員ぶん殴ってやった。
     ババアには飯の支度をしろだ、使用人の手伝いをしろだ、商談の護衛について来いだの、ガキどもが戯れてるのが見たいだの色々させられた。その時に色々覚えさせられたが、覚えといて損をしたことはないからその辺は感謝している。ちょびっとだけな。

     最初のジジイはろくに食わせもしなかったが、ババアは飯は朝と夜に食わせてくれた。硬いパンとスープとたまに肉だ。ババアが美味いもの食ってる時におこぼれも貰えた。おかげでガリガリのチビだったが半年ぐらいで一気にデカくなって驚かれた。
     最初から黒い鼻でローエンガルデ族だとは分かっていたようで、デカくなってからは貰える飯の量が増えた。
     そういえば、拾われてから何年かは腹が減って仕方なかったのと身体中が痛かったのを覚えてる。

     相変わらずババアは色んなところで色んな奴に金を貸しては取り立てていた。
     デカくなってからは護衛に丁度いいと、上等な服を着せられてババアの後ろに立たされた。
     俺は強面な方だから脅しにも丁度いいとババアはいい拾い物をしたと喜んでいた。
     
     ババアはの口癖は
    「金が一番信用できる」
     その後に大体「なんせ言葉をしゃべらない。口があるから嘘をつくんだよ」と続けることが多かった。
     その割に俺に祈らせるのは不思議だった。
     まあババアなりになんかあったんだろうな。

     いつだったかババアが言ったことがある。
     ギルの袋を俺に握らせながら、「アタシが死んだら誰も泣きもしないだろうし、誰も葬式なんざ上げちゃくれないだろうからアンタに私の葬式任せたよ」
     このババアでも弔いを求めるのかと少し驚いたが、別にババアの手下になってから悪い思いはしていないので頷いた。

     俺がガキから大人になってしばらく経ったぐらいか。ババアの悪趣味に付き合わされて俺も趣味が悪くなったり、人並みに付き合いなんかしてみても上手くいかなかったり、まあ飼われてる身ながらもそれなりに人生を謳歌してた訳だ。
     その間にババアが殺されかけるだの、碌でもない事は日常茶飯事だった。俺もついでに殺されかけたりもした。

     で、いろんなところで恨みを散々買ってたババアだがついにおっ死んじまった。
     ホライズンの方に商談に行くと言った数日後、ババアの乗ったチョコボキャリッジが襲われたと聞いた。
     死体は見つからなかったが、夥しい血の跡がチョコボキャリッジに残ってたらしい。
     その後、ババアの金貸し屋は番頭同士が誰が継ぐか争い始めて空中分解した。
     
     もちろん俺も飼い主が居なくなったから首輪が外れた訳だが、結局ババアとの約束を守る形で死体こそないが葬式をしてやった。
     あん時貰ったギル袋にババアの髪が一房入っていたからそれを燃やして代わりにした。
     思えば死体のない弔いを最初から分かっていた可能性もある。さすがウルダハで何年も金貸しを続けてたババアだ。先が読める奴だったんだろうな。
     俺は弔いの言葉は覚えちゃいるが、弔いに使う魔法は下手くそで髪を残してくれたのは助かった。
     俺のファイアはマッチぐらいの火しか出ねえし、サンダーに至っちゃ寒い時にバチっとする奴ぐらいの雷しか出ねえ。
     マッチ程度のファイアでババアの髪を燃やし、魂を寒い時のバチっとする奴ぐらいのサンダーで清めてやって、ザルの御許へ送る言葉をうろ覚えだか誦じた。
     碌でもないババアだったがザルの御許に行っちゃみんな一緒だ。「いい暮らししろよ」と呟き東ザナラーンの片隅に髪の灰を埋めてやった。

     で、結局自由になったが飼い犬暮らしが長くてな。ババアが出入りしてた悪趣味な店の馴染みになってたついでで、そこの店主のハゲに働き口が無いかと聞いたらそこで雇われ今に至る。ってわけだ。
     俺もやっぱ碌でもねぇな。
     辛気臭い話になっちまったがババアは嫌いじゃなかった。まあ、最後の最後まで香水臭かった。あの匂いは忘れらんねェな。
     
     
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