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    めるしゃんやで

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    恭理 付き合うまでをかるーく

    「はい、恭介」
    「……何だ、これ?」

     唐突に部屋に押しかけてきたかと思えば、可愛らしいシールで封をされた一通の手紙を引っ提げて、恭介の胸板にソレを押し付けた。
     目前に立つ理樹はあからさまに「なんだも何も見れば分かるじゃない」とでも言いたそうな顔をして、一つ息をつきながら男性にしては控えめで小さな口を開いた。

    「ラブレターだよ。恭介に渡してって、同じ学年の女子が」
    「ふーん……名前は?」
    「さぁ……違うクラスだし、一度も話したことないから」
    「そうか。まあ、なんだ。わざわざ届けてくれたんだな。サンキュ」

     そう言って恭介は己より数cm程低い頭をそっと撫でた後、理樹を部屋から見送った。
     ――ここから先、同じようなことが2年間続くことも知らずに。


     コンコン、と小気味良い音が部屋に響く。
     漫画を片手に入っていいぞ、と返事をしてみれば、扉を開けたのは見慣れた幼馴染……ではなく。

    「お、鈴。なんだ珍しい。またあの“卒業式でやりたいこと21位”の大喜利でもやってくれるのか?」
    「そんなこと一度もやってないだろ!」

     見ていると毛が逆立った猫耳としっぽが見えてきそうな妹の手には、これまで散々見てきた白の封筒の姿があり、恭介は鈴を宥めつつ手中にある手紙の方へ話題を切り替えた。

    「ああ……これな。うん。恭介のことが好きな物好きのクラスメイトに渡すよう頼まれた」
    「そうかそうか。クラスメイトをそんな風に言うのはやめような」
    「む……。そうだな、うん」

     先程とは打って変わってしょんぼりといったSEが付属していそうな鈴を見るに、やはりあれ以来クラスメイトとは上手くやれているらしい。それに頼み事を任されている時点でかなり打ち解けているようだ。兄としてこれ程喜ばしいこともそうそう無いだろう。
     とはいえ、鈴が恭介に“コレ”をすることはかなりイレギュラーなことだ。というかそれこそ一度もやったことが無い。
     なんせ、今までのラブレター輸送係は全て、直枝理樹その人に任されていたからである。理樹からしかラブレターを受け取ったことがないから、確実だ。

    「なんだ、むつかしい顔して。あたし、もう帰るぞ」
    「待て。理樹は今日何ともなかったか?」
    「ギクッ」

     (妹よ、オノマトペは中々声に出すものじゃないぞ)
     恐らく世界でトップクラスに分かりやすい我が妹。汗をダラダラ流しながら必死に「えっと」「そのだな」と言い訳をしようとしている。まあ、可愛い。

    「り、理樹は、そのほんとに何にもない。授業も最後まで居たし、げ、元気だ」
    「本当か?」
    「ホントだ」
    「神北に誓えるか?」
    「なんでそこでこまりちゃんが出てくるっ!?」
    「誓えるか?」
    「うっ……ち、誓うっ」

     何も無かったのは本当のようだ。まあ、今日は朝食も夕食も皆で食べたから知ってるのだが。(鈴は動揺で忘れている様だ)

    「でも、じゃあなんでお前がコレを持ってきたんだ?」
    「うーーーっ……う〜〜〜〜〜〜〜」
    「なんだ、そんなに言いずらいことなのか」
    「……分からん……」

     鈴はようやく重い腰を上げ話し出した。

    〜〜
     それは昼休みのことだった。
     いつもの如く、クラスの女生徒に棗先輩にラブレターを渡しておいて欲しいと頼まれていた。

    「頼める……かな?」
    「あーうん。恭介にだよね、これ。うん」

     これまでならどうせ断っても無理矢理押し切られるからとすんなり受け取っていたそれを、珍しく指一本すら触れられずにいた。
     だから、いつもは恭介の色恋に興味のないあたしも、つい声をかけてしまった。

    「理樹、どうした? ……恭介宛か?」
    「うん。ほら、直枝くんって、棗先輩とお友達でしょ? だから……」
    「あ、あはは……そりゃまあ、ね。うん」

     どこか上の空な理樹。心配で考える間もなく言った。

    「あたしが渡してやる」
    「え、いいの? ならお願いしようかな。ありがとう鈴ちゃん。あと直枝くんも!」
    〜〜

    「とにかく、分からん! あの時の理樹の様子がちょっと変だったのは、分かる、けど……」
    「なら晩飯食ってる時も空元気だったのはそれかもな」
    「うん……。……!? そうだ! 夕食一緒に食べてただろっ!」
    「今更だな……」

     一日の終わりだったし、ただ疲れているだけかと思ったが、話を聞くにどうやら原因は別だったらしい。
     少し考え事をしている間に、まだ聞きたいことがあるのに抜き足差し足で部屋から出ていこうとする鈴を横目に、あと小一時間で消灯時間だしと見逃した。
     まあ鈴に聞いたって仕方がないことだ。本人に聞いた方が手っ取り早い。
     その日はそれ以上考えず、恭介は眠りについた。


     朝起きて、食堂に向かって、真っ先に探すのは幼馴染の顔。
     何せ鈴はまだしも、真人も謙吾も背が高くゴツイ。一緒に行動している以上目立つ。何より恭介が理樹の姿を見逃すわけがない。ないのだ。

    「……で、理樹は」
    「なんだお前。遠目でじっと見つめて棒立ちしているかと思えば、急にこっちに駆け寄ってきておいて」
    「理樹なら部屋だぞ。体調悪いんだとさ。」

     ほっとした。まさか俺にだけ理樹が透明に見える魔法でもかかっているのかと。

    「そんなわけないだろ、バカか?」
    「安心しろ恭介。ちゃんと部屋から出る前に、筋肉が足りないから体調崩すんだぞ、とキツく言っておいたから」
    「理樹のとこに行くなら、これも持って行ってくれ。朝食と薬」

     恭介は返事も程々に、それを受け取ってすぐ男子寮へと足を運んだ。


    「理樹、入るぞ」

     一言入れた後、返事がなかったから寝ているかもしれないと思い、なるべく音を立てないようゆっくり扉を開けた。
     電気は付いておらず、外から差す太陽光だけで室内は満ちている。
     二段ベットの下段を見遣れば、理樹(と思わしき布団にくるまった何か)が居り、近寄る。

    「理樹? 風邪でも引いたのか?」
    「うわっ、きょ、恭介!?」

     珍しいものでも見たかのように、大袈裟に飛び跳ねる。飛び出た理樹の顔は、分厚い布団にくるまっていたからか若干頬が上気しているくらいで、熱があるとか体がだるいとかはなさそうだった。

    「真人から体調悪いって聞いてな、心配で来た」
    「……? あ、うん。そう。そうだ。ありがとう」
    「……仮病か?」
    「………………あはは」

     まるで今思い出したかのような返事をされれば、そりゃあ気付くってものだ。理樹もさすがに誤魔化せないと悟ったからか、諦めて苦笑いをうかべる。
     (仮病使って休むほど、なんかあったってことか。)

    「鈴から、昨日の理樹の様子が変だったって聞いてな。もしかして、それか?」
    「……恭介って、気付くの早いよね、ほんとにさ」
    「そりゃそうだろ。何年居ると思ってる」
    「そうだね、うん」
    「で、何があったんだ。言ってみろ」
    「っえ。……で、でもさ、ほら。でも、もう恭介に、甘えないって、」
    「あー、いや、そうだな。言ったこと守るのは偉いけど、それ俺や鈴達に心配かけてまで守ることか?」

     思わぬ返答に理樹は狼狽える。でもまあそこで引き下がるほど軽い悩みでは無いらしい。

    「きょ、恭介だってほら、就活で忙しいし! こんな所で時間食べてないで、さ」
    「先週、内定決まったから一段落したって、言っただろ?」

     理樹は大きな瞳をぱちくりとさせた後、顔を俯かせてどこか気まずそうに口を開く。

    「……いやぁ、きょ、恭介って……好きな人、居るのかなって」
    「……は? 何だ急に」
    「ほ、ほら。恭介って山ほどラブレター貰ってるじゃない? でも、誰かと付き合ったとか聞かないし、全部断ってるのかな〜って」
    「……それと理樹の悩み事は関係あるのか?」

     恭介がそういえば、理樹はしどろもどろになりながら「あると言われればあるかも?」と答える。その後すぐないと言われればないかもと付け足されたが。どっちなんだ。

    「だって、あれだけ貰ってるなら一通くらい好きな人から貰ってるんじゃないかなーって……」
    「……一通くらいも何も、好きなやつからしか貰ったことないぞ」
    「!? い、いやいやいや。ま、まさか、全員好きだったの!?」
    「なんでそうなる! あーいや、確かに、そうなるか」
    「なるよ!」
    「まあ正確に言うと、肝心のその好きなやつは、俺宛のラブレターは渡してくれないんだ」
    「……? どういう――」

     ここまで言って分からないとは、理樹の天然っぷりには些か驚かされる。
     仕方ないとばかりに恭介は、ストレート且つ大胆に言ってやることにした。

    「理樹だよ。好きなやつ」
    「……………………………………そ、そういう!?!? い、いやまって。うそ」
    「嘘じゃない。てか言っただろ? 今んとこ理樹が一番だって」
    「そそそそれ、それは、そういう意味だと思ってないっていうか」
    「……なんだ、嫌か?」

     一応病人という体で休んでいるのに、これでもかというほど叫び散らかす姿を見ると拒絶されているのかとも思う。
     理樹はまた先程のようにうぅとかあぁとか言って言い淀み始める。恭介の突然の告白以上の爆弾発言でもあると言うのか?

    「爆弾発言した自覚はあるんだね」
    「まあ一応、一世一代の告白をしたつもりだからな」
    「こっ……。ッ……だって、だって、それじゃあ。」

     ――僕の悩み事、解決しちゃった

     頬を一際赤く染めながら放たれた言葉に、思わず硬直する。
     ああ、でも。流石にそこまで言われて察せない恭介ではない。無いのだが。

    「つまり、どういうことだよ? 理樹」

     それとこれとは別で、やはり本人の口から直接、ストレート且つ大胆に言って欲しい。

    「……わかってて聞いてるでしょ」
    「おう。さっきまで慌ててたのに、随分冷静な分析だな?」
    「あーうん、なんかね。一周まわって冷静と言いますか、ははは」
    「……」
    「…………っ。ぼ、僕も」

    「恭介のことが、好き」
    「……そうか」

     そっと、恭介は理樹の手を取り、しっかり握りしめて

    「じゃあ相思相愛ってことで、式はいつにする?」
    「き、気が早すぎるでしょ!?!?!?!?」

     一世一代の告白だというのに、軸がぶれない恭介なのであった。

    〜〜
    >>理樹と真人の寮部屋前

    「心配でおねーちゃんと一緒に部屋まで来てみれば、あんな大声で愛の告白しあっているだなんて……はるちん今日イチの驚愕ですヨ」
    「今日はまだ始まったばかりでしょ。……全く、早く行くわよ葉留佳」
    「えーこっからが面白そうなのにー?」
    「……一限をサボることは、特別に見逃してあげるのよ」
    「! そう! そうだね! はるちんなーんにも知りませ〜ん!」
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