Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    totokoko7002

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    totokoko7002

    ☆quiet follow

    テラディオED後捏造。pixivにupした話の続きです。

    これからの話「これから、か…今まで考えたこともなかったな。常に死と隣り合わせにある毎日の中で、これからなどと」


    これからの話をしましょう。ディオン様は、何がしたいですか?


    本当の意味での久々の再会に、散々泣き、顔を寄せ、触れ合ったあと。二人を包む空気はこれまでに感じたことがないほど穏やかで、もうずっと身を委ねていたい気分だった。絡めたままの指先から伝わる互いの体温も二人を内側から温めてくれる。尽きぬ話題の中で、テランスがそう問いかけた。
    何がしたい、か。昔はやりたいことやなりたい自分の理想像をたくさん思い描いていたはずだった。だがいつからか、ただ目の前の困難に立ち向かうことに必死で、明日のことなど考えられなくなっていた。成し遂げたいことはあったが、自分が心から望んでいたことだったのかと問われるならば、返答に迷ってしまうだろう。今思えば、それは苦しかった。けれどもいつも傍らにあった光のおかげで、苦しいだけの日々ではなかった。ああまったく、自分は果報者だ。全ての人がこのような恩恵に浴することができるわけではないだろう。
    今もなお隣にその光があることの至福を噛み締め、ディオンはそっと瞼を閉じた。

    「この国の、この大陸の、この世界のすべての人々が、これからのことを笑いながら語り合えるような、そんな世界になってほしいと私は思う」
    テランスの目がハッとしたように見開かれたあと、すぐに柔らかく細められ眦が下がった。
    「正直に申しますと、ディオン様がお戻りになられた時…もう皇子でおられずとも良いのではないか、と思ったのです。あなたはこれまで国に、民に、その全てを捧げてこられました。生まれ変わった世界で、ご自分のためだけに生きて欲しいと」
    テランスはその時の自分自身に思いを馳せるように遠くを見つめる。自分が目覚めるまでの間、あるいは悠久にも思えたかもしれない時間の中で、テランスは何を思っていたのだろうと考えを巡らせるとディオンの心臓がきゅうと痛んだ。やはり、どれだけ謝ろうとも謝りきれないほどのことを自分はしてきたのかもしれない。
    自らを省みて静かに目を伏せるディオンに、テランスは微笑んでみせる。
    「ですが…たとえ国がなくとも、城がなくとも、街がなくとも、大地がなくとも。そこに民がいるのであればあなたはそれを守ろうとなさるでしょう。ですから私たちにできること、なすべきことはザンブレクの再建だと思ってやってまいりました」
    優しい表情だが、それだけではない。己の正義を曲げぬ意志の強さと全てを受け止める懐の広さ、テランスの中にある硬さと柔らかさを両方感じられる、ディオンの大好きな表情だ。
    そんな彼が自分を最大限に理解してくれているという事実を嬉しく思い、自然と口許は綻んだ。
    「ありがとう、私の意志を汲み取ってくれて」
    真っ直ぐな感謝の言葉に、テランスは少し照れた様子ではにかんだ。
    「クリスタルがなくなったとて、これで争いがなくなったわけではない。むしろこのように秩序を失った時こそ、人々は焦燥に駆られ不安になる。そうした心のざわめきが他の者を妬み、恨み、疑うこととなって諍いを起こすだろう。今は各国が自国の秩序を取り戻すのに必死だろうが、落ち着けばザンブレクの領土を狙ってこないとも限らぬ。まずは国を建て直し国力を示しつつも、段階を踏んで平和協定を結んでいくべきだろう。それぞれの国のあり方自体も変わっていくかもしれないが」
    両の手を顎の下で組み、ことさらに真剣な顔つきでディオンは言う。折り重なった指が外されたこともあって、テランスはいやに寂しさを覚えた。
    「新たな未来を切り拓くには、リーダーが必要だと個人的には思いますが。あなた様ならば、民と心を重ね共に歩いていくことができるでしょう」
    「どうだろうな。ともすれば、足枷となるだけかもしれぬ。そもそも認めてもらえるかもわからん。だが民が私を必要としてくれるのならば、私はその信頼に応えたい」
    今なら傷つかない選択肢は他にあるのに、彼は決してその道を選ぶことはしない。民に何と思われるか、どんな言葉を向けられるのか、その恐怖とさえ向き合おうとしている。こんな人を他に知らない。それが全ての答えだ、とテランスは思った。同時に、以前は持ち得なかった感情が渦巻いていることを自覚し狼狽する。なんだかここのところ、自分がどんどん欲深くなっていく気がするのだ。
    「テランス?」
    そんな感情の機微が顔に出ていたのだろう。ディオンが不安そうに名を呼ぶ声でハッと我に返る。
    「どうかしたか」
    「あ、いえ…」
    煮え切らぬ返答にディオンが眉をひそめる。
    「なんと言いますか…申し上げるにはとても憚られる我儘ですので」
    「構わん、申してみよ」
    どうやら見逃してはくれないらしい。この有無を言わせない圧倒的なオーラと呼べばいいのか何なのか、とにかくそういったものがディオンには備わっている。それは生まれ持った才覚なのか磨き上げたものであるのかはわからないし、どちらかに言い切るものでもないのかもしれない。
    観念したテランスは白状した。
    「……あなたという方は国のこれからばかりで、この私とのこれからはどのようにお考えになられているのかと、少々……いえ!や、やはりこのようなことは申し上げるべきではございませんでした!お忘れください!」
    テランスは片手で顔を覆い、首をひねって顔を背けながらもう片方の手のひらをディオンの方に向ける。見ないでくれ、と全身で懇願するその様子がディオンにはなんだかとてもかわいらしく見えた。顔は隠せても真っ赤な耳は隠せていないから余計にだ。愛おしいとはこういった感情を言うのだと今日は何度も何度もテランスに教えられている。


    「………すまない。私ときたらそなたが隣にいてくれることを当たり前に感じて、すっかり甘えてしまっていた」
    それがどれだけ奇跡的で幸福なことであるか、つい先ほど実感したばかりだというのに。
    目の前にかざされた手をとり、一本一本指を絡めていく。戸惑いに揺れるテランスの指先をもう片方の手で丁寧に折りたたみ自らのそれと重ねた。
    見える景色が変わっても、人は簡単には変われない。大切な人をもう傷つけないためには、自分自身の意志をもって変わろうとしなければならないのだ。まずは言葉と態度で示さなければ。
    「そうだな、まずは…この格好良くて心根が優しくて頭も良くて武芸にも秀でた非の打ち所のない男が、私の恋人だぞと世界中に自慢して回りたいな」
    「!!!!!そ、それは…そっくりそのまま私が言いたいセリフですが…」
    骨ばった指先にキスを贈りながら告げると、テランスは勢いよくこちらを向いた。勢い余って想定外に顔が近付き、慌てているがもう遅い。
    「言いたければ言えばよかろう」
    ディオンは上目にじっと見つめて微笑んでみせる。もちろん、繋いだ手に力を込めることも忘れずに。その蠱惑的な笑みに、テランスはくらりと眩暈がした。
    「……言っても、よろしいのですか?」
    欲と理性に揺れる瞳でテランスが尋ねる。
    ディオンは繋いでいない方の手でテランスの頬を包み込み、力強く頷いた。
    「これからは誰に隠れることも、恥じることもなくそなたと生きてゆきたい。それが私の望みだ」
    水平線から上りゆく朝陽のような黄金に見つめられ、テランスは魂から揺さぶられるような感覚に陥った。この人はいつだってそうだ、テランスすら知らない心の奥底の感情にまで手を伸ばし、陽の下へ引きずり出してしまう。そうしてそれをまるごと全部、包み込んでしまうのだ。許されることを知ったならばもう、陰へ戻ることはできない。
    「あなたの生きる道が私の生きる道ですから、どこまでもお供いたします」
    「…む。後ろはもう嫌だからな。隣を歩かないと許さんぞ」
    頬に添えられた手に自分の手を重ねテランスが答えると、ディオンは不服そうに唇を尖らせる。拗ねていることを隠そうとせずむしろ全面に押し出している、あまりにも素直なそのさまにテランスは思わず笑みをこぼした。ひとつ大きな荷物をその背から下ろした彼は、少し幼くなっただろうか。失われた時間を取り戻そうとしているようにも思えた。
    「もちろん承知しておりますとも。我が君」
    機嫌を直してほしくて従順に頷き微笑むテランスだったが、どうやら逆効果だったようだ。ディオンの形の良い唇はますます尖ってしまった。何か間違えてしまったのか見当がつかずテランスは困惑した。
    「そなたの方こそ、もう従者でいる必要はないのだぞ。今まで我が道を押し通してきた私にも非はあるが…これからは私が間違っていると思った時は止めてくれ。私もそなたの意見を聞き、歩み寄る努力をしよう」
    思わぬ言葉にテランスは目を丸くした。ディオンの選択が間違っていると思ったことはない。ただ、そこにテランスの意思を入れさせてはくれないのかと歯痒い思いをしたことは数知れない。それらの経験を思えば、もちろんそれはありがたい申し出ではあるのだが。
    「あの、ディオン様?」
    「なんだ?」
    こほん、と一つ咳払いをしてテランスは続けた。
    「…あなたは私のことを生真面目で義理堅い男だと買い被りすぎではないでしょうか」
    「その通りではないか。何が違うと言う?」
    テランスの言っている意味を量りかねたディオンは怪訝そうに聞き返した。ずい、と顔を近付けてくるその勢いの良さにテランスは苦笑する。納得できないことをそのままにしておけないディオンの性格は以前から重々承知しているが、感情のままに接してくれることが嬉しかった。だからこそ自分も感情のままに応えてよい、否、応えなければなるまい。10年もの間大事に育んできた二人の関係性が、少しの変化を帯びる。予測はしていなかったがこうしたこともあるのだろう。それを一つひとつ積み重ねて、また互いを思いやり寄り添って生きていくのだという実感に襲われテランスの胸は喜びに打ち震えた。

    思考を遠くの海にたゆたわせていると、答えを催促するようにくいと服の裾を引っ張られ我に返る。そうだ、まずは目の前のしかめっ面をどうにか崩して差し上げなければ。服の裾を掴んだままの手をとり今度はこちらから指を絡めると、すぐに指先が甘えてきた。
    「職務中も堂々とあなたのお側にいられる職が他にあるならば、変えても構いませんが…今のところ思いつきませんので」
    テランスはにっこりと微笑んだ。いや、口許はもうずっと緩みっぱなしだったのだが。
    こともなげに言ってみせるテランスに一瞬面食らったディオンだったが、ふは、と口許を押さえて吹き出した。
    「なるほど。存外利己的で欲深いと……そういえば、温和に見えて融通がきかぬのは昔からだな」
    思い当たる節が一つ、二つ……ディオンは思考を巡らせたが切りがないのですぐにやめにした。
    「お嫌いですか?」
    「ーーいいや。その方が人間らしくて良い」
    そんな心配していないくせに上辺だけは不安そうな表情を作るテランスに対して、間髪入れずに否定の返事をしてやる。それから目の前の首元に勢いよく抱きついた。わ、と驚きの声をあげるテランスだが、即座にその左手はディオンの腰に回り全身で受け止める。慣れを通り越して反射的にすらなっているその動作に底知れぬ気分の良さを感じて、ディオンは恍惚の表情を浮かべた。


    ーーさぁ、次はそなたの番だ。これからどうしたい?

    テランスにだって、今まで考えることすら許されなかった、ディオンと思い描く“これから”がたくさんあった。けれど、今求められているのはそのうちのどれかではなく、きっともっと単純なもの。


    ーーあなたのお心のままに、我が君。


    そして口付けをひとつ。

    さぁ、これからの話をしよう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💯💯💯💯💞💞💞👏👏💞☺👏👏👏😭😭❤❤👏👏💖💖💖❤😭💖💞💖💖😭😭😭😭🙏🙏💖👏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏❤🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works